投げる、打つ、走るといった、腰に負担のかかる動作が多い野球では、腰痛に悩まされる選手は少なくありません。パフォーマンスの低下だけでなく、日常生活にも影響を及ぼす可能性があります。
この記事では、野球における腰痛の代表的な原因、治療法、そして効果的な予防策まで、整形外科専門医の視点から詳しく解説します。
腰痛に悩んでいる選手はもちろん、指導者や保護者の方々にも役立つ情報が満載です。
目次
野球による腰痛の3つの原因
腰椎分離症
腰椎分離症は、成長期の選手に多く見られます。
腰ぼね(腰椎)は、5つの椎体と呼ばれる骨が積み重なってできています。腰椎分離症は、この椎体の一部に亀裂(骨折)が起こった状態です。
野球は、体を捻る、反らすといった激しい動きが繰り返されます。これにより腰椎に負担がかかり、分離症を引き起こすと言われます。
初期には自覚症状がない場合もありますが、進行すると腰や下肢の痛み、しびれといった症状が現れます。重症になると、日常生活にも支障をきたすため、早期発見・早期治療が重要です。
成長期の激しいスポーツで発症する割合は人口の約6%程度と言われており、そのうち約3分の1の人がすべり症を合併すると言われています。

>>腰椎分離症でやってはいけないこと|スポーツ復帰までの注意点
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアは、背骨と背骨の間にあるクッション材である椎間板の一部が飛び出し、神経を圧迫することで起こります。
野球では、腰に大きな力が加わるため、椎間板ヘルニアのリスクが高まります。腰の痛みだけでなく、お尻や下肢にかけての痛みやしびれ、重症になると排尿・排便障害といった症状も現れることがあります。

仙腸関節障害
骨盤は、左右の寛骨と中央の仙骨から構成されており、仙骨と寛骨の間にある関節が仙腸関節です。上半身と下半身をつなぐ重要な役割を担っており、歩く、走る、立つといった動作の際に衝撃を吸収しています。
仙腸関節障害では、腰や臀部(おしり)の痛み、脚の付け根の痛みなどがみられます。
スポーツによる反復動作だけでなく、妊娠・出産や加齢など、様々な原因で発症する可能性がある疾患です。

治療法、復帰までの流れ
保存療法
- 薬物療法: 痛みや炎症を抑える薬を服用します。
- コルセット: 腰を固定することで、負担を軽減し、痛みを和らげます。長期間の使用は、周囲の筋肉を弱める可能性があるため、医師の指示に従うことが大切です。
- 理学療法: 専門家である理学療法士によるマッサージやストレッチ、筋力トレーニングなどを行います。腰周りの筋肉をほぐし、柔軟性を高め、腰を支える筋肉を強化することで、腰痛の改善や再発予防を目指します。
手術療法
保存療法で効果がない場合や、症状が重い場合は、手術療法を検討します。手術が必要となるのは比較的少数の患者に限られます。
- 椎間板ヘルニア: 飛び出した椎間板を切除する手術を行います。内視鏡を用いた低侵襲手術を選択できる場合もあります。
プレー復帰までの流れ
プレー復帰までの流れは、患者さんの症状や治療内容によって異なります。
- リハビリテーション: 痛みが軽減してきたら、リハビリテーションを開始します。理学療法士の指導のもと、ストレッチ、筋力トレーニング、体幹トレーニングなどを行います。
- 段階的な練習再開: 痛みがなく、十分な筋力や柔軟性が獲得できたら、練習を再開します。最初は軽い運動から始め、徐々に強度を高めていきます。
- 競技復帰: 十分な練習を行い、問題がなければ競技に復帰します。復帰後も、再発予防のために、継続的にリハビリテーションやトレーニングを行うことが重要です。
当院では、再発予防プログラムを導入し、スポーツ障害の予防指導を行っていきます。
腰痛を予防するための対策
正しいフォームの習得
野球の投球やバッティング動作は、腰を捻る・伸ばす・曲げるといった、腰に大きな負担がかかる動作の連続です。間違ったフォームで行うと、腰への負担がさらに大きくなり、腰痛を引き起こすリスクが高まります。正しいフォームを身につけることで、腰への負担を最小限に抑え、効率的な身体の使い方を習得できるのです。
例えば、ピッチングでは、体幹の回旋と伸展を適切に行うことが重要です。軸足の踏ん張り、体重移動、腕の振りなどが正しく連動することで、無駄な力が腰にかかるのを防ぐことができます。バッティングでは、スイングの際に腰を過剰に回転させたり、反動を使いすぎると、腰椎に大きなストレスがかかってしまいます。
正しいフォームと言っても正解は必ずしもないと考えています。個々の特性、骨格、筋力等総合的に判断し、指導を行います。
体幹トレーニングの実施
体幹トレーニングは、腰痛予防に非常に効果的です。体幹は、身体の幹となる部分であり、腹筋、背筋、お尻の筋肉、横隔膜など多くの筋肉が複雑に絡み合って構成されています。
体幹トレーニングを行うことで、これらの筋肉群がバランスよく鍛えられ、腰椎の安定性が増します。腰椎が安定すると、周りの筋肉や靭帯への負担が軽減され、腰痛の発生リスクを抑えることができるのです。
体幹トレーニングは、様々な種類がありますが、特に効果的なのはプランク、バックエクステンション、サイドブリッジなどです。これらのトレーニングは自重で行うことができ、特別な器具も必要ありません。自宅でも手軽に取り組むことができますので、ぜひ習慣づけてみてください。
ストレッチ
ストレッチは、筋肉の柔軟性を高め、腰痛を予防する効果があります。野球のプレーでは、特定の筋肉が繰り返し使われます。その結果、筋肉が硬くなり、柔軟性が低下すると、腰痛の原因となることがあります。ストレッチングによって筋肉の柔軟性を高め、血行を促進することで、筋肉の緊張を和らげ、腰への負担を軽減することができるのです。
特に、肩甲骨、股関節の柔軟性が最も大事な要素と考えており、重点的にストレッチすることが重要です。
まとめ
野球による腰痛は、腰椎分離症、腰椎椎間板ヘルニア、仙腸関節障害など、様々な原因が考えられます。
原因に応じた適切な治療法を選択することが重要です。保存療法には、薬物療法、コルセット、理学療法などがあり、症状が重い場合は手術療法も検討されます。
予防には、正しいフォームの習得、体幹トレーニング、ストレッチなどが効果的です。これらの対策を継続的に行うことで、負担を軽減し、腰痛を予防し、大好きな野球を長く続けられるようにしましょう。
参考文献
- Studnicka K, Ampat G. Lumbosacral Spondylolisthesis. 2025.
- Watanabe Y, Kato K, Otoshi K, Tominaga R, Kaga T, Igari T, Sato R, Oi N, Konno S-I. Associations between core stability and low back pain in high school baseball players: A cross-sectional study. PMID: 34167867.
