肩甲骨の痛み、 じっとしていてもズキズキ、腕を上げると激痛…そんな経験はありませんか?
実は、日本人の多くが経験する身近な悩みである肩甲骨の痛みは、その原因が実に多様で、放置すると慢性化することもあります。
この記事では、整形外科専門医が解説する肩甲骨の痛みの原因5つを詳しく解説。
さらに、医療機関での治療法5つを網羅。
「もう肩甲骨の痛みと付き合うしかない…」と諦める前に、この記事で原因を特定し、あなたに最適な治療法を見つけましょう。
快適な生活を取り戻すための第一歩を、今すぐ踏み出してみませんか?
目次
肩甲骨の痛みの主な原因5つ

①筋肉の緊張とストレス
肩甲骨周辺の筋肉、例えば僧帽筋や肩甲挙筋、菱形筋などが緊張すると、肩甲骨の動きが制限され、痛みが現れます。
現代社会において、ストレスは肩甲骨の痛みの大きな要因の一つです。ストレスを感じると自律神経のバランスが崩れ、筋肉が過剰に緊張しやすくなります。
長時間のパソコン作業やスマホの使いすぎ、デスクワークなど、同じ姿勢を続けることで筋肉が緊張することは、皆さんも経験があるのではないでしょうか。
また、精神的なストレス、例えば、仕事や人間関係の悩み、不安なども筋肉の緊張を引き起こし、肩甲骨の痛みにつながることがあります。
②姿勢の悪さによる影響

猫背や巻き肩などの姿勢が悪いと、肩甲骨が本来あるべき位置からずれてしまい、周囲の筋肉や関節に負担がかかります。
長時間のデスクワークで猫背になっている方を診察すると、肩甲骨が外側に広がり、左右のバランスが崩れていることが多いです。
肩甲骨の位置のずれは、筋肉のアンバランスを生み出し、肩甲骨の動きを制限するため、痛みや不快感を引き起こすのです。
③運動不足と筋力低下
運動不足によって肩甲骨周辺の筋肉が弱くなると、肩甲骨を安定させる力が低下し、痛みが発生しやすくなります。
特に、普段から運動習慣のない方やデスクワーク中心の生活を送っている方は注意が必要です。
④外傷や過度の使いすぎ
転倒や衝突などで肩甲骨を直接打撲したり、肩関節を脱臼したりすると、肩甲骨に痛みが生じることがあります。
また、野球やテニス、バレーボール、水泳などのスポーツで肩を酷使すると、肩甲骨周辺の筋肉や腱が炎症を起こし、痛みを引き起こすことがあります。
水泳選手によく見られる「スイマーショルダー」は、肩甲骨の運動異常(肩甲骨ジスキネシス)と関連していることが報告されています。
肩甲骨ジスキネシスとは、腕を動かす際に肩甲骨の位置や動きに異常が生じる状態です。
これは、肩甲骨を安定させる筋肉の活動パターンが乱れることで起こり、肩の痛みや動きの制限につながります。
⑤関節や神経の疾患との関連
肩甲骨の痛みは、肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)や頸椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群などの疾患に伴って現れることもあります。
これらの疾患は、肩甲骨周辺の神経や血管を圧迫し、痛みやしびれなどの症状を引き起こします。
例えば、四十肩・五十肩では、肩関節の炎症によって肩甲骨の動きが制限され、痛みが生じます。
>>【セルフチェック】四十肩・五十肩の初期症状10個/放置すると危険な兆候とは

肩甲骨の痛みに対する治療法5つ
肩甲骨の痛みには先ほど紹介した5つの原因があり、それぞれに合わせた適切な治療法を選択することが重要です。
①リハビリテーション療法
肩甲骨の痛みは、放置すると慢性化し、痛みが長引く可能性があります。自己判断で対処するのではなく、まずは医療機関を受診し、専門医による診断を受けることが重要です。
整形外科を受診し、レントゲン検査やMRI検査、超音波検査などを通して痛みの原因を特定してもらいましょう
リハビリテーションでは、肩甲骨周辺の筋肉の柔軟性を高めるストレッチや、筋力を強化するためのトレーニング、肩甲骨の位置や動きを改善する運動療法などを行います。
理学療法士などの専門家の指導のもと、適切なリハビリを行うことで痛みの改善、再発予防が期待できます。
②薬物治療
肩甲骨の痛みが強い場合、医師の判断により薬物療法が用いられます。
痛み止めとして、鎮痛剤や消炎鎮痛剤が処方されることがあります。これらの薬は、炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。
また、筋肉の緊張を和らげる筋弛緩剤が処方される場合もあります。
③ストレッチと筋トレ
肩甲骨の痛みは、肩甲骨周辺の筋肉の緊張やこわばり、あるいは筋力低下が原因となっている場合が多くあります。
ストレッチや筋力トレーニングは、これらの原因に対処し、肩甲骨の痛みを改善するために非常に重要です。ストレッチは、肩甲骨を支える筋肉を伸ばし、柔軟性を高めることで痛みの緩和や可動域の改善を目指します。
筋力トレーニングは、肩甲骨を支える筋肉を強化することで肩甲骨の安定性を高め、痛みを予防します。筋力トレーニングは、軽い重量から始め、徐々に負荷を上げていくことが大切です。適切なフォームで行うことで、効果的に筋肉を鍛えることができます。
④温熱療法や冷却療法
温熱療法と冷却療法は、肩甲骨の痛みに対する物理療法として用いられます。
温熱療法は、患部に温熱を当てることで血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる効果が期待できます。冷却療法は、患部を冷やすことで炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。
痛みの種類や状態によって使い分けることが重要です。急性期の炎症が強い痛みには冷却療法、慢性的な痛みや筋肉の凝りには温熱療法が適していることが多いです。
⑤マッサージなどの補完療法
マッサージなどの補完療法も、肩甲骨の痛みの改善に役立つことがあります。マッサージは、肩甲骨周辺の筋肉の緊張を和らげ、血行を促進する効果があります。

肩甲骨の痛みを改善するためのセルフケア方法5つ
肩甲骨の痛みは、肩甲骨周辺の筋肉が固まってしまったり、姿勢が悪くなったりすることで、痛みが生じやすくなります。
セルフケアを正しく行うことで、痛みを和らげ、再発を予防することができます。
ここで紹介する5つのセルフケア方法を参考に、肩甲骨の痛みを改善していきましょう。
①日常生活での姿勢改善
正しい姿勢を保つことは、肩甲骨の痛みを改善するためにとても大切です。猫背のように背中が丸まっていると、肩甲骨が外側に引っ張られ、周囲の筋肉に負担がかかりやすくなります。
- 良い姿勢のポイント:耳、肩、腰、くるぶしが一直線になるように意識しましょう。
- デスクワークでの姿勢:パソコンの画面を目の高さに合わせ、椅子に深く座り、骨盤を立てて座ることを意識しましょう。
- スマートフォンの使用:スマートフォンを目線の高さまで持ち上げ、長時間同じ姿勢で使用するのは避けましょう。
- 立ち姿勢:お腹に軽く力を入れて、背筋を伸ばし、顎を引いて視線を前に向けましょう。
これらのポイントを意識することで、肩甲骨への負担を軽減し、痛みの改善につながります。
②定期的な運動
適度な運動は、筋肉を強化し、柔軟性を高める効果があります。
- ウォーキングやジョギング:全身の血行促進効果があり、肩甲骨周辺の筋肉もほぐれます。
- 水泳:肩甲骨を大きく動かすことで、筋肉の強化や柔軟性の向上につながります。
ただし、スイマーショルダーと呼ばれる肩の痛みは、水泳選手によくみられる障害で、肩甲骨の動きの異常(ジスキネシス:肩甲骨の動きのリズムが崩れた状態)と関連している場合があります。適切なフォームで泳ぐことが重要です。 - ヨガやピラティス:体幹を鍛え、姿勢改善にも効果的です。
無理のない範囲で、週に数回、30分程度の運動を心がけましょう。
③ストレッチの習慣化
肩甲骨周辺の筋肉が硬くなると、痛みが出やすくなります。ストレッチで筋肉を柔らかくすることで、痛みを和らげ、動きをスムーズにすることができます。
- 肩甲骨を上下に動かす:肩をすくめるように持ち上げ、5秒ほど保持し、ゆっくりと下ろします。
- 肩甲骨を内側に寄せる:両手を後ろで組み、胸を張るように肩甲骨を内側に寄せ、5秒ほど保持します。
- 腕を回す:腕を大きく前後に回すことで、肩甲骨周辺の筋肉をほぐします。
1回につき10~15秒程度、気持ち良いと感じる範囲で行いましょう。
④生活環境の見直し
日常生活の環境も、肩甲骨の痛みに影響を与える可能性があります。
- 椅子や机の高さ:自分に合った高さの椅子や机を使用することで、正しい姿勢を保ちやすくなります。
- 寝具:柔らかすぎるマットレスや高すぎる枕は、肩甲骨に負担をかける可能性があります。
⑤健康的な生活習慣の実践
健康的な生活習慣は、肩甲骨の痛みだけでなく、全身の健康維持にも繋がります。ストレスを感じると自律神経のバランスが崩れ、筋肉が過剰に緊張しやすくなり、肩甲骨の痛みにつながることがあります。
- 十分な睡眠:睡眠不足は、筋肉の疲労回復を妨げ、痛みを悪化させる可能性があります。
- バランスの取れた食事:栄養バランスの良い食事は、健康な筋肉を作るために不可欠です。
- ストレス管理:ストレスは、筋肉の緊張を高め、痛みを悪化させる可能性があります。趣味やリラックスできる活動を見つけ、ストレスを上手に発散しましょう。
これらの生活習慣を見直すことで、肩甲骨の痛みを改善し、快適な日常生活を送るために役立ちます。
まとめ
この記事では、肩甲骨の痛みの原因と、その改善に向けた様々な治療法、セルフケア方法を紹介しました。肩甲骨の痛みは、筋肉の緊張や姿勢の悪さ、運動不足など、様々な要因が複雑に絡み合って起こります。
まずは、原因を特定するために整形外科などの医療機関を受診し、医師の診断を受けることが大切です。
レントゲン検査やMRI検査などの精密検査で、正確な原因を突き止め、適切な治療計画を立てましょう。
治療法としては、薬物療法、リハビリテーション、ストレッチや筋トレ、温熱・冷却療法、マッサージなどがあります。これらの治療法は、症状や原因によって使い分けられます。
さらに、日常生活での姿勢改善、定期的な運動、ストレッチの習慣化、生活環境の見直し、健康的な生活習慣の維持といったセルフケアも非常に重要です。これらのセルフケアを継続することで、痛みの軽減や再発予防に繋がります。
肩甲骨の痛みでお困りの方は、決して一人で悩まず、この記事を参考に、まずは専門医への相談やセルフケアから始めてみましょう。小さな積み重ねが、快適な生活を取り戻す第一歩になります。
参考文献
- 1, Struyf F, Tate A, Kuppens K, Feijen S, Michener LA. “Musculoskeletal dysfunctions associated with swimmers’ shoulder.” British journal of sports medicine 51, no. 10 (2017): 775-780.
- 2, Kibler WB, McMullen J. “Scapular dyskinesis and its relation to shoulder pain.” The Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons 11, no. 2 (2003): 142-51