目次
肩関節脱臼とは?原因・症状・種類を解説

肩関節脱臼のメカニズム
肩関節は、上腕骨と呼ばれる骨の先端の丸い部分と、肩甲骨の関節窩という受け皿のような部分で構成されています。
この構造は、まるでボールとグローブの関係に似ています。このボールとグローブがぴったり合わさることで、腕を自由に動かすことができます。
しかし、強い外力が加わると、このボールがグローブから外れてしまうことがあります。
これが肩関節脱臼です。
例えば、転倒して手をついた時や、コンタクトスポーツ(ラグビーなど)で相手にぶつかった時などに、肩関節に大きな力が加わり、脱臼が起こることがあります。
肩関節脱臼の種類
肩関節脱臼は、上腕骨頭がどの方向に外れるかによって、いくつかの種類に分けられます。
最も多いのは前方脱臼で、全体の95%以上を占めます。これは、転倒して手を前に出した時に起こりやすい脱臼です。
他に、後方脱臼や下方脱臼などがありますが、これらは比較的まれです。
前方脱臼は、ボールがグローブの手前側に飛び出すイメージ、後方脱臼はグローブの後ろ側に飛び出すイメージです。
肩関節脱臼の主な症状3つ
肩関節脱臼の主な症状は、以下の3つです。
- 激しい痛み:脱臼すると、肩や腕に激しい痛みを感じます。まるで電気が走るような痛みです。患部を少しでも動かすと、痛みがさらに強くなります。
- 肩の変形:脱臼すると、肩の形が変わってしまいます。健常な肩と比べると、脱臼した側の肩が明らかに変形しているのがわかります。まるで肩の一部が凹んでいるように見えることもあります。
- 運動制限:脱臼すると、腕を動かすことができなくなります。腕を上げようとしたり、回そうとしたりすると、激痛が走るため、日常生活にも支障をきたします。
これらの症状に加えて、しびれや腫れ、内出血などが現れることもあります。中には、神経麻痺を合併してしまうケースもあります。
肩関節脱臼になりやすい人の特徴
肩関節脱臼は誰にでも起こりうるものですが、特に以下のよう特徴のある方は注意が必要です。
・10代〜20代の若い世代:スポーツなどで活発に動くため、怪我をするリスクも高まります。
特に、ラグビーやアメフト、柔道などのコンタクトスポーツをしている人は要注意です。
・関節が柔らかい人:生まれつき関節が柔らかい人は、脱臼しやすいため、注意が必要です。
・40歳以上:加齢とともに、関節や靭帯、筋肉などが衰えてくるため、比較的軽い衝撃でも脱臼を起こしやすくなります。
研究によると、40歳以下の若い方、男性、関節が過度に柔らかい方は、肩関節脱臼の再発リスクが高いことが報告されています。
肩関節脱臼と間違えやすい他の疾患
肩の痛みや運動制限を引き起こす病気は、肩関節脱臼以外にもいくつかあります。
例えば、肩鎖関節脱臼、腱板断裂、上腕骨近位端骨折などです。これらの病気は、肩関節脱臼と似たような症状を示すため、自己判断は危険です。
>>肩腱板損傷の完全ガイド/ 症状から治療法まで整形外科専門医が詳しく解説
肩関節脱臼の治療法とリハビリテーション
応急処置の方法
肩関節脱臼は、非常に強い痛みを伴います。一刻も早く痛みを和らげたいと感じるのは当然です。
応急処置として以下の2つが重要です。
- 安静: 脱臼した腕は、まるでぶら下がっているかのように不安定な状態です。
動かさずに安静を保つことが大切です。三角巾やタオルなどで固定すると、腕の重みによる負担を軽減できます。 - 冷却: 氷嚢や氷水を入れたビニール袋をタオルで包み、患部に当てて冷やします。冷却時間は15分程度とし、30分程度の間隔をあけて、冷やすことを繰り返します。
これらの応急処置を行った後、速やかに医療機関を受診してください。自己判断で整復しようとすると、神経や血管を損傷するリスクがあるため、絶対に避けてください。
整復法の種類と特徴
医療機関では、脱臼した肩関節を元の位置に戻す「整復」を行います。
整復法にはさまざまな種類があり、患者様の状態や脱臼の程度に応じて、最適な方法が選択されます。整復時の痛みを軽減するために、局所麻酔や鎮静剤、全身麻酔を使用する場合もあります。
手術が必要なケース
多くの肩関節脱臼は整復と保存療法で改善しますが、手術が必要となるケースもあります。
関節唇や腱板、靭帯など、肩関節周囲の組織に損傷が大きい場合、脱臼を繰り返す場合、保存療法で痛みが改善しない場合などは、手術が必要となることがあります。
手術には、関節鏡を使った手術や、皮膚を切開する手術など、さまざまな方法があります。医師とよく相談し、最適な治療法を選択することが重要です。
リハビリテーションの内容と期間
整復後、肩関節の安定性と機能を回復させるためには、リハビリテーションが不可欠です。
リハビリテーションの内容は、受傷の程度や回復状況、年齢、活動レベルに合わせて個別に設定されます。
初期は、痛みや腫れを抑えるための安静と冷却が中心です。痛みが軽減してきたら、肩関節周囲の筋肉を強化するための運動療法を開始します。
リハビリテーションでは、肩甲骨周囲の筋肉のトレーニングや、関節可動域訓練を行います。回復が進むにつれて、日常生活動作訓練やスポーツ復帰に向けた機能訓練へと移行していきます。
リハビリテーションの期間は個人差がありますが、通常は数週間から数ヶ月かかります。焦らず、医師や理学療法士の指示に従って、根気強くリハビリテーションに取り組むことが大切です。
肩関節脱臼の再発予防と日常生活の注意点

再発予防のための具体的な対策3選
肩関節脱臼の再発予防には、肩周囲の筋肉、腱、特に腱板と呼ばれる筋肉群を鍛えることが重要です。
腱板は、肩関節を安定させる役割を担っています。この筋肉、腱が弱いと、上腕骨頭が肩甲骨関節窩から外れやすくなり、脱臼しやすくなってしまいます。
具体的には、以下の3つの対策を意識してみましょう。
- 肩甲骨周りの筋肉トレーニング: 肩甲骨を支える筋肉が弱いと、肩関節が不安定になりやすいです。例えば、チューブトレーニングや軽いダンベルを使った筋トレ、肩甲骨を上下左右に動かす体操などが効果的です。
- 過度な肩への負担を避ける: 重い荷物を持つ、無理な体勢での作業、腕を急に引っ張られるなどの動作は避けましょう。日常生活動作でも、身体の向きを変えて行う、台を使うなど工夫してみましょう。
- 適切なウォーミングアップとクーリングダウン: スポーツの前後には、必ず肩周りのストレッチを行いましょう。ウォーミングアップで筋肉を温め、柔軟性を高めることで、怪我の予防に繋がります。
特に40歳以下の方は、研究によると再発のリスクが高いという報告があるので、念入りな対策が必要です。

まとめ
肩関節脱臼は、スポーツや日常生活での転倒などで起こりやすい病気です。
この記事では、脱臼のメカニズムから、応急処置、治療法、リハビリ、再発予防までを網羅的に解説しました。
肩に強い痛みや変形を感じたら、自己判断せずに速やかに医療機関を受診しましょう。適切な処置とリハビリテーションで、ほとんどの場合、日常生活に復帰できます。
特に若い方やスポーツをされる方は、再発リスクが高いので、日頃から予防を心がけましょう。
この記事が、あなたの健康管理の一助になれば幸いです。
参考文献
- Olds M, Ellis R, Donaldson K, Parmar P, Kersten P. Risk factors which predispose first-time traumatic anterior shoulder dislocations to recurrent instability in adults: a systematic review and meta-analysis. British journal of sports medicine 49, no. 14 (2015): 913-22.
- Nazzal EM, Herman ZJ, Engler ID, Dalton JF, Freehill MT, Lin A. First-time traumatic anterior shoulder dislocation: current concepts. Journal of ISAKOS: joint disorders & orthopaedic sports medicine 8, no. 2 (2023): 101-107.