肩鎖関節脱臼の症状と治療法|重症度別の治療期間と後遺症のリスク

肩鎖関節脱臼は、スポーツや転倒など、日常生活でも起こりうる身近な怪我です。

この記事では、鎖骨と肩甲骨をつなぐ肩鎖関節が外れる「肩鎖関節脱臼」の症状や治療法から診断方法、保存療法(固定、薬物療法、リハビリ)、手術療法、そして再発予防策まで、分かりやすく解説します。

症状

肩の痛みと腫れ

肩鎖関節が脱臼すると、まず強い痛みを感じます。まるで針で刺されたような鋭い痛みや、重くてズキズキする痛みなどがあります。

また、脱臼した直後から肩が腫れ始めます。これは、損傷した関節周囲の組織で炎症反応が起こっているためです。

可動域制限

肩鎖関節脱臼は、肩の動きを制限する原因と一つです。
腕を上げたり、回したりする動作が難しくなり、日常生活にも支障をきたします。
例えば、服を着替えたり、髪を洗ったり何気ない動作でさえ、痛みを伴い困難になります。これは、脱臼によって関節の構造が不安定になり、スムーズな動きが阻害されるためです。

痺れや違和感

痺れや違和感などの症状が現れます。これらの症状は、損傷によって神経が圧迫されたり、炎症が周囲の組織に広がると引き起こされます。痺れは、肩だけでなく、腕や手先にまで広がる場合があります。

また、脱臼した肩に何かが引っ掛かっているような違和感や、肩が重く感じるという症状を訴える患者さんもいます。これらは、関節の不安定性や周囲の筋肉の緊張などが原因として考えられます。

肩周囲の変形

肩鎖関節脱臼の程度が重い場合、肩の外観に変化が現れます。
鎖骨の外端が肩甲骨よりも上に突き出て、階段状に変形します。
これは、脱臼によって鎖骨と肩甲骨の位置関係がずれてしまうために起こります。

鎖骨骨折を伴う肩鎖関節脱臼では、この変形が顕著に現れるケースが多いです。

原因

スポーツによる外傷

コンタクトスポーツや転倒のリスクが高いスポーツで多く見られます。
ラグビーやアメリカンフットボールでは、タックルなどの激しい接触によって肩に強い衝撃が加わり、肩鎖関節脱臼が起こります。

また、スキーやスノーボード、スケートボードといった転倒のリスクが高いスポーツでも、肩から地面に落ちた際に肩鎖関節に大きな力が加わり、脱臼が発生しやすいです。
転倒による衝撃は、関節の靭帯を損傷させ、脱臼を引き起こすだけでなく、鎖骨骨折を併発するリスクも高めます。

交通事故や転倒

交通事故や日常生活での転倒も、肩鎖関節脱臼の大きな原因です。自転車での転倒や、階段からの転落など、予期せぬ出来事によって肩を強打し、脱臼に至るケースは少なくありません。

交通事故や転倒は、日常生活のあらゆる場面で起こりうるため、注意が必要です。特に、高齢者の方は骨が弱くなっているため、転倒による脱臼のリスクが高まります。

繰り返しのストレス

肩に繰り返し負担がかかる動作を続けると、肩鎖関節周辺の組織が疲労し、炎症を起こしたり、靭帯が損傷したりして脱臼に至ります。
これは、野球のピッチャーやバレーボールのアタッカー、水泳選手など、特定の動作を繰り返し行うスポーツ選手に多く見られます。

例えば、野球のピッチャーが投球動作を繰り返すうちに肩鎖関節に負担がかかり、脱臼のリスクが高まります。また、水泳選手がクロールやバタフライで腕を回す動作を繰り返すと、肩鎖関節周辺の組織に炎症が生じ、脱臼を起こすケースも少なくありません。このような繰り返しのストレスによる脱臼は、軽度の損傷であっても、適切な治療を行わないと慢性的な痛みにつながる可能性があります。特に若いアスリートは将来の競技生活に影響を及ぼす可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。

診断と検査

見た目で鎖骨の先端が飛び出しているなど、明らかに異常があるとわかりますが、損傷の程度を正確に把握し、適切な治療方針を決定するためには、医師による診察と検査が不可欠です。

身体検査

医師による身体検査では、まず視診を行います。肩の形状や腫れの程度、皮膚の変色などを観察し、鎖骨の外端が階段状に飛び出しているかを確認します。

次に触診を行い、患部に圧痛があるか、関節の動きに制限があるかなどを確認します。肩を上下左右に動かしたり、腕を回したりする動作で痛みや違和感の有無、可動域の制限などを評価します。

これらの身体検査を通して、脱臼の程度や他の損傷の有無を判断します。

画像診断(X線、MRI)

身体検査に加えて、画像診断も重要な役割を果たします。
X線検査では、骨の状態や脱臼の程度を確認できます。肩鎖関節の隙間が広がっている場合は脱臼の可能性が高いです。また、鎖骨や肩甲骨の骨折の有無も確認できます。

MRI検査では、靭帯や筋肉、腱などの軟部組織の状態を詳細に評価できます。肩鎖関節を支えている靭帯の損傷の程度や、周囲の筋肉や腱の炎症の有無などを確認すると、より正確な診断が可能になります。

他の症状や疾患の鑑別

肩の痛みや腫れは、肩鎖関節脱臼以外にも、腱板断裂、上腕骨骨折、肩関節脱臼、鎖骨骨折など、様々な原因で起こりえます。これらの疾患と肩鎖関節脱臼を鑑別するためには、症状や痛みの部位、発生機序などを詳しく確認する必要があります。

治療法と治療期間

保存療法

比較的軽度の脱臼の場合、手術を行わずに自然治癒を目指す保存療法が選択されます。

保存療法には様々な方法がありますが、代表的なものをご紹介します。

  • 三角巾や装具による固定: 脱臼した関節を安静な状態に保つため、腕を固定します。これは、骨折した際にギプスで固定するのと同じ考え方です。固定期間は患者さんの状態によって異なりますが、3週間から数ヶ月程度の場合が多いです。

  • 消炎鎮痛剤の服用: 痛みや炎症を抑える薬を服用します。

  • リハビリテーション: 関節の可動域を回復させ、筋力を強化するための運動療法を行います。具体的な内容は患者さんの状態に合わせて決定しますが、腕を上下左右に動かしたり、肩甲骨を動かしたりする運動などが行われます。例えば、ゴムチューブを用いたトレーニングや、壁に手をついて行う腕立て伏せのような運動もあります。

手術療法

保存療法で改善が見られない場合や、重度の脱臼で関節が不安定な場合は、手術療法が選択されます。手術には、損傷した靭帯を修復したり、人工靭帯で補強したりする方法などがあります。

手術療法は保存療法に比べて身体への負担が大きくなりますが、より確実に関節を安定させる効果が期待できます。近年では、低侵襲手術と呼ばれる身体への負担が少ない手術法も開発されており、患者さんの状態に合わせて最適な方法を選択します。

重症度別の回復までの期間

回復までの期間は、脱臼の重症度や治療法、個々の患者さんの状態によって大きく異なります。

軽度の脱臼であれば、保存療法で数週間から数ヶ月で日常生活に支障がない程度まで回復することが多いです。一方、重度の脱臼や手術が必要な場合は、回復に半年以上かかる場合もあります。

文献でも、Rockwood分類I~II型(軽度)の損傷は保存的治療、IV~VI型(高度)の損傷は手術、III型は保存後で肩甲骨運動障害や慢性痛がある場合は手術が検討されると報告されています。

焦らず、医師の指示に従って治療とリハビリテーションを続けることが大切です。

後遺症リスクと予防策

多くの場合、適切な治療を受ければ日常生活に支障なく生活できるようになります。
しかし、稀に後遺症が残るケースもあるため、適切な知識を持つことが重要です。

可能性のある後遺症4つ

  1. 関節の不安定性: 脱臼によって関節が不安定になり、肩がグラグラしたり、亜脱臼を繰り返すといった症状が残ります。

  2. 慢性的な痛み: 脱臼した部分や周辺組織に痛みが残ります。これは、炎症が長引いたり、関節の軟骨や靭帯が損傷すると起こります。

  3. 可動域制限: 肩の動きが悪くなる、いわゆる「肩が上がらない」状態になります。これは関節の不安定性や痛みが原因で起こり、肩を動かす範囲が狭くなります。

  4. 変形: 脱臼した部分が変形します。特に重度の脱臼では、鎖骨の外端が飛び出した状態になり、見た目に変化が現れます。

再発を防ぐための生活習慣

肩鎖関節脱臼は一度経験すると再発しやすい怪我です。再発を防ぐためには、日常生活で以下の点に注意することが重要です。

  • スポーツ: 激しいコンタクトスポーツや転倒リスクの高いスポーツをする場合は、適切な防具を着用し、ウォーミングアップを十分に行うことが重要です。例えば、ラグビーやアメフトではショルダーパッドの着用が効果的です。

  • 姿勢: 猫背や肩をすくめる姿勢は肩関節に負担をかけ、脱臼のリスクを高めます。

まとめ

肩鎖関節脱臼は、適切な治療を受ければ多くの場合日常生活に支障なく回復できますが、重症度や治療法、個人差によって回復期間は大きく異なります。

軽症であれば保存療法で数週間から数ヶ月、重症や手術が必要な場合は半年以上かかる場合もあります。
後遺症のリスクも存在し、関節の不安定性、慢性的な痛み、可動域制限、変形などが挙げられます。
再発を防ぐためには、スポーツ時の防具着用、正しい姿勢の維持、日常生活での注意が大切です。

参考文献

  1. Monica J, Vredenburgh Z, Korsh J, Gatt C. “Acute Shoulder Injuries in Adults.” American family physician 94, no. 2 (2016): 119-27.
  2. Berthold DP, Muench LN, Dyrna F, Mazzocca AD, Garvin P, Voss A, Scheiderer B, Siebenlist S, Imhoff AB, Beitzel K. “Current concepts in acromioclavicular joint (AC) instability – a proposed treatment algorithm for acute and chronic AC-joint surgery.” BMC musculoskeletal disorders 23, no. 1 (2022): 1078.