膝の痛みの部位別原因図鑑|専門医が解説する部位別症状と治療法

膝の痛み、あなたはどこが痛いですか?
痛みの場所によって原因が異なることをご存知でしょうか?

膝のお皿の痛み、内側の痛み、外側の痛み、そして膝裏の痛み。その一つ一つに、隠された原因と適切な治療法が存在します。

この記事では、膝の痛みの場所別に考えられる原因を図鑑のように分かりやすく解説。
さらに、具体的な症状や治療法、そして自宅でできる効果的なセルフケアまで、整形外科医としての経験に基づき、ご紹介します。

世界中で約6億5400万人が悩まされている変形性膝関節症や、生涯有病率約25%にも及ぶ膝蓋大腿関節症など、具体的な数字を交えながら、あなたの膝の痛みの原因を探り、快適な日常生活を取り戻すためのヒントを見つけましょう。

膝痛の部位別原因と症状

膝前面の痛み

  • 膝蓋大腿関節症: 膝のお皿(膝蓋骨)と太ももの骨(大腿骨)が、まるでうまくかみ合わない歯車のように、擦れ合って炎症を起こしている状態です。ランニングや、ジャンプや階段の上り下りなど、膝に負担がかかる動作で痛みが出ます。高齢者に発症することが多いです。


    オスグッド・シュラッター病: 成長期のスポーツをしているお子さんに多く見られます。太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)が膝のお皿の下の骨(脛骨粗面)を引っ張ることで、炎症や痛み、腫れを引き起こします。ジャンプやダッシュなど、激しい運動をした後に痛みが強くなります。膝のお皿の下の出っ張りが痛む、腫れている、熱を持っているなどの症状が現れます。成長痛の一つと考えられており、成長期が過ぎると自然に治癒することが多いですが、適切な治療を行わないと骨の変形が残ってしまう可能性もあります。

膝内側の痛み

  • 変形性膝関節症: 膝の軟骨がすり減ってしまい、炎症を起こす病気です。

  • 初期は立ち上がりや歩き始めに痛みを感じることが多く、進行すると常に痛むようになります。階段の上り下りや正座がつらい、膝が腫れる、朝起きた時に膝がこわばるといった症状も現れます。高齢者に多い病気ですが、肥満やスポーツ、ケガなども原因となります。


  • 内側側副靭帯損傷半月板損傷: 膝関節の内側にある靭帯や半月板が損傷した状態です。スポーツ中の接触や転倒など、膝が外側に捻じれることで起こります。膝の内側に痛みや腫れ、熱感などの症状が現れます。損傷程度が軽度の場合は安静や固定で改善しますが、重度の場合は手術が必要となることもあります。

膝外側の痛み

  • 腸脛靭帯症候群(ランナー膝): 太ももの外側から膝の外側にかけて付着する腸脛靭帯という組織と、大腿骨の外側部が擦れ合って炎症を起こす病気です。

  • ランニングやジャンプなどの繰り返しの動作で痛みが増悪します。

  • 外側側副靭帯損傷、半月板損傷: 膝関節の外側にある靭帯や半月板が損傷した状態です。スポーツ中や転倒など、膝が内側に捻じれることで起こります。

  • 膝の外側に痛みや腫れが現れ、関節が不安定になることもあります。損傷の程度によって治療法が異なります。

膝後面の痛み

  • ベーカー嚢胞: 膝関節の滑液が溜まって腫れる病気です。膝の裏側にぷっくりとした腫れが現れ、痛みや違和感、膝を曲げたときに膝下にしびれを感じることがあります。

  • 膝窩筋腱炎: 膝の裏側にある膝窩筋という筋肉の腱が炎症を起こした状態です。スポーツや急な方向転換などで起こります。

膝の痛みに対する適切な治療法の選択肢

膝の痛みは、その原因や症状の程度、そして患者さんの年齢や生活スタイルによって、最適な治療法が大きく異なります。専門医とよく相談し、ご自身の状況に合わせて選択しましょう。

保存療法:薬物療法、注射療法、理学療法など

保存療法は、手術をせずに膝の痛みを改善する方法です。

  • 薬物療法: 鎮痛剤や消炎鎮痛剤を用いて痛みや炎症を抑えます。内服薬は即効性がありますが、胃腸障害などの副作用に注意が必要です。

  • 注射療法: ヒアルロン酸注射やステロイド注射などがあります。ヒアルロン酸は関節液の主成分であり、注射することで関節の動きを滑らかにし、痛みを軽減します。変形性膝関節症の患者さんによく用いられます。

  • ステロイドは強力な抗炎症作用を持つ薬剤で、炎症を抑える効果が高い一方、軟骨への影響も懸念されるため、使用頻度を制限する必要があります。

  • 理学療法: 専門家である理学療法士の指導のもと、ストレッチや筋力トレーニングなどを行います。膝関節の周囲の筋肉を強化することで、関節の安定性を高め、痛みを軽減することが期待できます。

手術療法:関節鏡手術、人工関節置換術など

保存療法で十分な効果が得られない場合や、重度の関節損傷がある場合には、手術療法が検討されます。

  • 関節鏡手術: 関節内に小さなカメラを挿入し、損傷した半月板などを修復する手術です。傷口が小さいため、体への負担が少なく、回復も比較的早いのが特徴です。スポーツによる半月板損傷などで、比較的若い患者さんに適応されることが多いです。

  • 人工関節置換術: 損傷が激しい関節を人工関節に置き換える手術です。変形性膝関節症の末期などで、日常生活に支障が出るほどの痛みがある場合に検討されます。手術によって痛みは大幅に軽減されますが、人工関節の寿命は限られているため、将来的な再手術の可能性も考慮する必要があります。高齢の患者さんに多く行われる手術です。

各治療法のメリット・デメリット、費用、期間

それぞれの治療法にはメリット・デメリットがあり、費用や治療期間も異なります。ご自身の状況や希望を踏まえ、医師とよく相談しながら最適な治療法を選びましょう。

治療法 メリット デメリット 期間
薬物療法 比較的安価、手軽に始められる 根本的な解決にならない場合がある、副作用の可能性 数週間~数ヶ月
注射療法 効果が比較的早く現れる 効果の持続期間が短い場合がある、副作用の可能性 数週間~数ヶ月
理学療法 根本的な改善を目指す、副作用が少ない 効果が現れるまでに時間がかかる場合がある 数ヶ月~数年
関節鏡手術 低侵襲、回復が早い すべての症例に適応できるわけではない 数週間~数ヶ月
人工関節置換術 痛みや機能障害を大きく改善できる 手術のリスク、人工関節の寿命 数ヶ月~数年

膝の痛みを予防・改善するためのセルフケア

私は整形外科医として、膝の痛みを抱える多くの患者さんと向き合ってきました。その経験から、痛みを予防し、改善するためには、日頃からのセルフケアが非常に重要だと考えています。適切なセルフケアは、膝の機能を維持し、将来的な痛みや障害のリスクを軽減するだけでなく、QOL(生活の質)の向上にも繋がります。

ここでは、膝の痛みに効果的なセルフケアの方法を、ストレッチ、筋力トレーニング、生活習慣の改善、装具や補助具の使用の4つの側面から詳しくご紹介します。

ストレッチ

  • 大腿四頭筋ストレッチ: 立った状態で片足を後ろに曲げ、かかとをお尻に近づけるように持ちます。このとき、太ももの前側に伸びを感じることが大切です。
  • ハムストリングストレッチ: 床に座り、片足を伸ばし、もう片方の足を曲げます。伸ばした足のつま先に向かって上体を倒し、太ももの裏側に伸びを感じます。
  • ふくらはぎのストレッチ: 壁に手をついて、片足を後ろに引きます。かかとを床につけたまま、後ろ足の膝をゆっくりと曲げ、ふくらはぎの筋肉を伸ばします。

これらのストレッチは、1回につき20~30秒程度、繰り返すことで効果を発揮します。痛みを感じる場合は無理せず、できる範囲で行いましょう。毎日継続することで、徐々に効果を実感できるはずです。

筋力トレーニング

  • スクワット: 椅子に座るように腰を落とし、立ち上がる動作を繰り返します。「膝がつま先よりも前に出ない」ように注意し、お尻を後ろに突き出すように意識すると、より効果的に鍛えられます。
  • レッグプレス: マシンを使って足を押し出すことで、大腿四頭筋やハムストリングスを鍛えます。
  • カーフレイズ: つま先立ちになり、かかとを上下させることで、ふくらはぎの筋肉を鍛えます。

筋力トレーニングは、週に2~3回程度行うのが理想的です。負荷が強すぎると逆効果になる場合があるので、無理せず、徐々に負荷を上げていきましょう。高齢の方や運動に慣れていない方は、軽い負荷から始め、回数を徐々に増やしていくことをお勧めします。

生活習慣の改善

  • 適正体重の維持: 肥満は膝への負担を増大させます。1kgの体重増加は、階段の上り下りなどで膝に3~6kgの負荷をかけるという報告もあります。適正体重を維持することで、膝への負担を軽減し、痛みの予防・改善に繋がります。
  • 適切な靴の選択: クッション性の高い靴を履くことで、膝への衝撃を吸収できます。特に、ウォーキングやランニングをする際は、スポーツタイプのシューズを選ぶようにしましょう。
  • 正しい姿勢: 猫背や反り腰は、膝関節への負担を増加させます。日頃から正しい姿勢を意識することで、膝への負担を軽減できます。
  • ウォーミングアップ: 運動前は、必ずウォーミングアップを行いましょう。急な運動は、膝関節に大きな負担をかけ、痛みの原因となります。

日常生活の中で、膝への負担を意識することは非常に重要です。例えば、和式トイレではなく洋式トイレを使用する、椅子に座る際は深く腰掛ける、重い荷物を持つ際は両手で均等に持つなど、小さな工夫を積み重ねることで、膝への負担を軽減することができます。

装具や補助具の使用

  • 膝サポーター: 関節の動きをサポートし、痛みを軽減します。様々な種類があるので、症状や目的に合わせて適切なものを選びましょう。
  • : 歩行時の負担を軽減し、バランスを保つのに役立ちます。杖を使うことで、痛む方の膝への負担を減らし、より安定した歩行が可能になります。
  • テーピング: 関節を固定し、安定させる効果があります。スポーツ選手がよく利用する方法ですが、日常生活でもテーピングを活用することで、膝の痛みを軽減することができます。

装具や補助具を使用する際は、医師や理学療法士に相談し、適切な使用方法を指導してもらうことが大切です。

膝の痛みは、原因や症状によって適切なセルフケアの方法が異なります。自己判断でケアを行うのではなく、医療機関を受診し、専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。

まとめ

この記事では、膝の痛みの原因を部位別に解説し、それぞれの症状に合わせた治療法をご紹介しました。

痛みを感じたら、まずはその部位、痛みの種類や程度、そしてどんな時に痛むのかなど、ご自身の症状をよく観察してみましょう。

この記事が、あなたの膝の痛み改善の第一歩となることを願っています。

参考文献

  1. Saavedra MÁ, Navarro-Zarza JE, Villaseñor-Ovies P, Canoso JJ, Vargas A, Chiapas-Gasca K, Hernández-Díaz C, Kalish RA. “Clinical anatomy of the knee.” Reumatologia clinica 8 Suppl 2, no. (2012): 39-45.
  2. Duong V, Oo WM, Ding C, Culvenor AG, Hunter DJ. “Evaluation and Treatment of Knee Pain: A Review.” JAMA 330, no. 16 (2023): 1568-1580.

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