膝裏(膝窩部)の痛み、日常生活を大きく阻害する悩みの種です。
単なる筋肉痛や使いすぎと片付けてはいけません。実は、膝裏の痛みは、様々な原因による痛みの可能性があるのです。
この記事では、膝裏の痛みの原因となる5つの可能性を詳しく解説します。さらに、診断方法、そしてストレッチや筋力トレーニングといった保存療法から、手術に至るまでの治療法を網羅的にご紹介します。
また、日常生活で簡単にできるストレッチや、生活改善策もご提案いたします。
目次
膝裏の痛みの原因
膝の靭帯損傷
膝には、前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯、外側側副靭帯という4つの主要な靭帯があります。
靭帯が損傷すると、膝の関節が不安定になり、痛みや腫れが生じます。特に後十字靭帯の損傷は、膝裏の痛みに直結しやすいです。
例えば、バスケットボールの試合中に急な方向転換をした際に、膝を捻ってしまい、後十字靭帯を損傷した高校生を診たことがあります。彼は膝裏に激痛を訴え、歩行も困難な状態でした。
腸脛靭帯症候群
腸脛靭帯はふともも(大腿)の外側から膝の外側、そしてすね(脛骨)に付着している長い靭帯です。
先日、マラソン大会に向けて練習をしていた40代の女性が来院されました。彼女は膝の外側に痛みを感じていましたが、次第に膝裏にも痛みが広がってきたとのことでした。診察の結果、腸脛靭帯症候群と診断しました。
ランニングのように膝を繰り返し曲げ伸ばしする運動を過度に行うと、腸脛靭帯と大腿骨外側顆との摩擦で炎症が起こり、腸脛靭帯症候群を引き起こすことがあります。痛みは膝の外側に現れることが多いですが、膝裏にまで広がるケースも少なくありません。
ベーカー嚢腫
ベーカー嚢腫は、膝関節の後ろにできる袋状の腫瘤です。関節液が溜まって風船のように膨らむことで発生します。
この腫瘤が神経を圧迫することで、膝裏に痛みやしびれが生じることがあります。変形性膝関節症などの基礎疾患が原因となる場合もあります。
膝関節炎
膝関節炎は、膝関節の軟骨がすり減ったり、炎症を起こしたりすることで、痛みや腫れ、動きの制限が生じる病気です。
変形性膝関節症は、膝関節炎を引き起こす代表的な例です。軟骨がすり減ることで、骨同士が直接ぶつかり、炎症や痛みを引き起こします。この炎症が膝裏にまで及ぶと、膝裏の痛みを感じることがあります。
筋腱炎
筋腱炎は、筋肉と腱の炎症です。
膝関節の周りには、太ももの裏側のハムストリングスやふくらはぎの筋肉など、多くの筋肉と腱があります。
例えば、サッカーの練習中に急にダッシュをした際に、ハムストリングスを痛めた中学生を診たことがあります。彼は膝裏に痛みを訴え、足を伸ばすことが困難でした。
これらの筋肉や腱に過度の負担がかかったり、急に伸ばされたりすると炎症を起こし、痛みを生じます。ハムストリングスの筋腱炎は、特に膝裏の痛みの原因となることが多いです。
>>膝の痛みの部位別原因図鑑|専門医が解説する部位別症状と治療法
診断法と治療法
診断法
膝裏の痛みの原因を特定するために、様々な検査方法を組み合わせて行います。問診では、痛みの程度やいつから痛むようになったのか、どのような動作で痛むのかなどを詳しく伺います。
触診: 実際に膝の裏を触り、腫れや熱感の有無、どこを触ると痛むのかなどを確認します。
レントゲン検査: 骨の状態を調べます。骨折や変形性膝関節症の有無が分かります。膝の骨が変形している場合、膝裏に痛みが出るケースも少なくありません。
MRI検査: レントゲン検査では写らない靭帯や筋肉、半月板、滑液包などの状態を詳細に確認できます。膝関節の後方に位置するベーカー嚢腫は、MRI検査で診断できます。
超音波検査: リアルタイムで筋肉や腱、関節内の液体貯留の有無などを確認できます。
治療法:リハビリテーション
多くの場合、手術をせずにリハビリテーションで痛みを和らげることができます。
ストレッチ: 膝裏の筋肉や靭帯の柔軟性を高めます。例えば、ハムストリングスのストレッチは、膝裏の筋肉の緊張を和らげます。
筋力トレーニング: 膝周りの筋肉を強化することで、膝関節を安定させます。適切な筋トレは、膝関節への負担を軽減し、再発予防にも繋がります。

治療法:薬物、ブロック治療
痛みや炎症を抑えるために、症状に合わせた薬物、ブロック治療を行います。
消炎鎮痛剤: 痛みと炎症を抑えます。炎症が強い場合に効果的です。
ブロック注射: 関節内のヒアルロン酸を補充することで、関節の動きを滑らかにします。腱炎など炎症が強い場合、ステロイド注射を使用し
保存療法で効果がない場合や、症状が重い場合は、手術が必要になることもあります。
日常での改善法
効果的な生活改善法をご紹介します。どれも簡単に取り入れられるものばかりですので、ぜひ試してみてください。
効果的なストレッチと体操
膝裏の痛みは、周りの筋肉が硬くなっていることが原因の一つです。例えば、デスクワーク中心で長時間同じ姿勢を続けていると、太ももの裏側の筋肉(ハムストリングス)が硬くなり、膝裏に負担がかかりやすくなります。
そこで、ストレッチや軽い体操で筋肉をほぐし、柔軟性を高めることが重要になります。
- ふくらはぎのストレッチ: 壁に手をつき、片足を後ろに引いて、アキレス腱を伸ばすようにゆっくりと体重をかけます。アキレス腱が硬いと、足首の動きが悪くなり、その影響が膝にまで及んでしまうのです。
- 太ももの前のストレッチ: 立った状態で片方の足首を持って、お尻の方に引き寄せます。太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)が硬いと、膝をスムーズに曲げ伸ばしすることが難しくなり、痛みが出やすくなります。
- 太ももの裏のストレッチ: 椅子に座り、片足を伸ばし、つま先を上にあげます。ハムストリングスの柔軟性を高めることで、膝裏への負担を軽減できます。
これらのストレッチは、1回につき20~30秒ほど、数回繰り返すと効果的です。痛みがある時は決して無理せず、心地良いと感じる範囲で行いましょう。
適切な靴選びのポイント
靴選びも、膝裏の痛みを軽減するために非常に重要です。
- かかとの低い靴を選ぶ: ハイヒールのようなかかとの高い靴は、膝への負担が大きくなります。スニーカーやウォーキングシューズなど、かかとの低い靴を選びましょう。
- クッション性のある靴を選ぶ: クッション性のある靴底は、地面からの衝撃を吸収し、膝への負担を軽減します。特に、ウォーキングやランニングをする際は、クッション性の高い靴を選ぶことが大切です。
- サイズが合った靴を選ぶ: 小さすぎる靴や大きすぎる靴は、歩き方に悪影響を与え、膝を痛める原因になります。自分の足に合ったサイズの靴を選び、快適な歩行を心がけましょう。

栄養と膝健康の関係
栄養バランスの良い食事は、膝の健康維持に欠かせません。特に、骨や軟骨の健康に重要なカルシウムやビタミンDを積極的に摂りましょう。
栄養素 | 含まれる食品 |
---|---|
カルシウム | 牛乳、チーズ、ヨーグルト、小魚、豆腐 |
ビタミンD | 魚、きのこ類、卵 |
また、膝の炎症を抑える効果が期待できるオメガ3脂肪酸を含む魚や、抗酸化作用のあるビタミンCを含む野菜や果物も積極的に摂り入れましょう。
専門医相談時のポイント
痛みが長引く場合や日常生活に支障が出る場合は、自己判断せずに専門医に相談しましょう。
痛みの程度や症状を具体的に伝える: 例えば、「階段を上る時にズキズキする」「朝起きた時に膝がこわばる」など、具体的な症状を伝えることで、医師は原因を特定しやすくなります。
いつから痛むようになったのか、どのような時に痛むのかを伝える: 痛みが始まった時期や状況を伝えることで、医師は適切な検査を選択できます。
これらの情報を伝えることで、医師は的確な診断と治療を行うことができますので、些細なことでも構いませんのでお気軽にご相談ください。
まとめ
この記事では、膝裏の痛みの原因として、膝靭帯損傷、腸脛靭帯症候群、ベーカー嚢腫、膝関節炎、筋腱炎などを解説しました。
原因特定には問診、触診に加え、レントゲン検査、MRI検査、超音波検査などが用いられます。
治療法としては、保存療法(ストレッチ、筋力トレーニング)、薬物療法(消炎鎮痛剤、ブロック注射)、必要に応じて手術療法があります。
しかし、痛みを軽減するためには、医療機関での治療に加え、ご自身の生活習慣の見直しも重要です。
紹介したストレッチ、適切な靴選び、栄養バランスの良い食事、そして専門医への相談方法を参考に、快適な生活を取り戻しましょう。
参考文献
