肉離れを早く治すコツ|整形外科専門医が教える回復術

突然の激痛、動けない… 
あなたは「肉離れ」を経験したことがありますか? スポーツ選手だけでなく、日常生活でも起こりうる肉離れは、放置すると回復が遅れ、再発のリスクも高まります。
実は、ハムストリング(太ももの裏の筋肉)の損傷は、スポーツ活動中の全損傷の12~26%を占めるほど多く、サッカーや陸上競技のスプリンターに多く見られます。

この記事では、整形外科専門医が教える、肉離れの原因から、早期回復のための応急処置、効果的なリハビリ、そして再発防止策までを徹底解説します。一刻も早い回復を目指し、肉離れに関する正しい知識を身につけてください。

メカニズム

肉離れとは、筋肉の線維が損傷することを指します。筋肉は、細い線維の束がゴムのように伸縮することで体を動かすことができます。急激な伸張や収縮、あるいは繰り返し動作などによって、この線維が耐えきれずに部分的あるいは完全に断裂してしまうのが肉離れです。

ハムストリングス(太ももの裏の筋肉)の損傷はスポーツ選手によくみられ、反復的な蹴りや高速スプリントを伴うスポーツで頻繁に発生し、ウォータースポーツでも多くみられます。

原因

肉離れは、様々な要因で発生します。
代表的なものとしては、ウォーミングアップ不足、急激な動作、筋肉のアンバランス、不適切なフォーム、環境要因などが挙げられます。
ウォーミングアップ不足は筋肉の柔軟性を低下させ、急な動きに対応できなくなり肉離れを起こしやすくなります。準備運動不足は肉離れの最も大きなリスク要因の一つと言えるでしょう。
また、筋肉のアンバランスも肉離れの原因です。特定の筋肉だけが発達していたり、反対に弱まっていると、バランスが崩れ、肉離れを起こしやすくなります。

高齢の方、糖尿病、高血圧などの持病がある方は、組織の修復能力が低下しているため肉離れを起こしやすく、また治癒が遅れる傾向があります。日常生活で肉離れが起きやすい動作としては、重い物を持ち上げる、階段を踏み外すなど、比較的軽い動作がきっかけとなる場合もあります。

症状

肉離れの症状は、損傷の程度によって大きく異なります。

軽度の肉離れでは、筋肉が少し伸びてしまったような感覚で、鈍い痛みを感じる程度の場合があります。患部を触ると軽い痛みがあるかもしれませんが、日常生活にはあまり支障がないこともあります。

中等度の肉離れになると、損傷した瞬間に鋭い痛みを感じ、その後も痛みが持続します。患部を触ると強い痛みがあり、腫れや内出血(皮下出血)もみられるようになります。また、筋肉の損傷により、患部を動かすことが難しくなり、歩行や運動が困難になることもあります。

重度の肉離れでは、筋肉が完全に断裂し、激痛とともに著しい腫れや内出血が現れます。患部に陥没や段差が生じることもあり、まるで皮膚の下で何かが切れたような感覚を覚える方もいます。患部を動かすことはもちろん、体重をかけることさえ困難になります。

肉離れの程度、種類

肉離れは、損傷の程度によって3つの段階に分類されます。

  • 軽度(I度): 筋肉の線維が一部損傷している状態です。筋線維の顕微鏡レベルでの損傷であり、筋肉全体の機能に大きな影響はありません。

  • 中等度(II度): 筋肉の線維が部分的に断裂している状態です。

  • 重度(III度): 筋肉の線維が完全に断裂している状態です。

肉離れの程度は、医療機関を受診し、医師の診察を受けることで初めて正確に診断できます。

診断方法

  • 診察: 患者さんの症状、受傷時の状況、患部の触診、徒手筋力検査などから肉離れの有無や程度を判断します。スポーツによる肉離れの多くは、太ももの裏の筋肉(ハムストリング)やふくらはぎに発生します。

  • 画像検査: MRI検査は、筋肉や腱の状態を詳細に確認できるため、肉離れの診断に非常に有用な検査です。損傷の程度や範囲を正確に把握することで、適切な治療方針を決定できます。特に、ハムストリング損傷のように、再発リスクの高い肉離れの場合、MRIによる迅速な診断が重要です。レントゲン検査は、骨折の有無を確認するために用いられます。肉離れ自体はレントゲン検査では確認できませんが、骨折を合併している場合もあるため、必要に応じてレントゲン検査も行います。

初期の応急処置と治療法

肉離れを起こした直後は、適切な応急処置が重要です。迅速な対応が、その後の回復を大きく左右します。肉離れの応急処置として最も重要なのがRICE処置です。
RICE処置とは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字をとったもので、肉離れだけでなく、捻挫や打撲など、様々な外傷の初期対応として有効です。

  • 安静: 患部を動かさずに安静を保つことは、損傷の悪化を防ぐ上で非常に重要です。患部を動かすことで、損傷した筋肉線維への負担が増大し、回復を遅らせてしまう可能性があります。
  • 冷却: 氷嚢などを用いて患部を冷却することで、炎症や腫れ、痛みを軽減する効果が期待できます。冷却時間は1回につき15~20分程度とし、凍傷を防ぐため、直接皮膚に氷を当てないようにタオルなどを巻いて使用しましょう。
  • 圧迫: 弾性包帯などで患部を圧迫することで、内出血や腫れを抑制し、損傷の拡大を防ぎます。ただし、締め付けすぎると血行が悪くなる可能性があるので、適度な圧迫を心がけてください。
  • 挙上: 患部を心臓より高い位置に挙げることで、血液の循環を改善し、腫れや痛みを軽減する効果があります。

RICE処置を行った後は、速やかに整形外科を受診しましょう。医師の診察を受け、正確な診断と適切な治療を受けることが重要です。
痛みが強い場合には、鎮痛剤が処方されることもあります。また、損傷の程度によっては、ギプスや装具などで患部を固定する必要がある場合もあります。自己判断で治療を行うと、症状が悪化したり、回復が遅れたりする可能性があるので、必ず医療機関を受診するようにしてください。

リハビリテーションの重要性と具体的な方法

肉離れの治療において、リハビリテーションは非常に重要な役割を担っています。リハビリテーションの目的は、損傷した筋肉の機能回復、筋力強化、そして再発予防です。適切なリハビリテーションを行うことで、早期の社会復帰やスポーツ復帰が可能です。

初期段階では、痛みを感じない範囲で、軽いストレッチから始めます。その後、徐々に運動強度を上げていくことが大切です。特に、スポーツ機能レベルへの復帰を目指す場合、肉ばなれは、筋肉が伸張されながら収縮する遠心性収縮時に発生すため、リハビリをする時、遠心性伸張運動が有効です。
遠心性伸張運動とは、筋肉を伸ばしながら力を発揮する運動のことで、日常生活で例えると、椅子にゆっくり座る時に太ももの筋肉が行っている動きです。

再発防止策

肉離れは再発しやすいケガです。一度肉離れを起こしたことがある方は、再発を防ぐための生活習慣を身につけることが重要です。肉離れの再発を防ぐためには、日頃から筋肉を健康な状態に保つためのケアを心がける必要があります。

具体的には、スポーツ前後のストレッチを十分に行うこと、適切なウォーミングアップとクールダウンを行うこと、バランスの取れた食事を摂ること、十分な睡眠をとることなどが挙げられます。

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肉離れは、適切な処置とケアで早期回復が可能です。この記事で紹介したRICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)は、初期の痛みの軽減に効果的です。その後は、整形外科を受診し、医師の診断に基づいた治療を受けることが大切です。

治療後もリハビリテーションは不可欠です。ストレッチや筋力トレーニングで筋肉の機能回復を目指しましょう。特に遠心性伸張運動は、スポーツ復帰を目指す方にとって有効です。

そして、再発防止のためには、日頃からウォーミングアップやストレッチを欠かさず行い、バランスの良い食事と十分な睡眠を心がけましょう。

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