2025.8.16 Sat. ゴルフで起こる怪我。専門医が原因から治療法まで解説 スポーツ ゴルフは人気ですが、腰痛や肘の痛みなど、様々な怪我のリスクが潜んでいます。1999年の調査では、ゴルファーの約70%がプレー中に何らかの痛みを経験したと報告されています。 目次1 ゴルフで起こりやすい怪我の種類と症状1.1 腰痛1.2 肘の痛み1.3 手首の痛み:TFCC損傷など1.4 肩の痛み:腱板炎、インピンジメント症候群など1.5 背中の痛み:筋肉の炎症、椎間板ヘルニアなど1.6 膝の痛み:半月板損傷、靭帯損傷など2 ゴルフの怪我の予防と応急処置2.1 ウォーミングアップの重要性2.2 正しいフォームの習得2.3 適切なギアの選択2.4 怪我発生時の応急処置:RICE処置2.5 ゴルフカート乗車時の注意点3 ゴルフの怪我の治療とリハビリ3.1 痛みや腫れを抑える方法3.2 医療機関の受診:整形外科、スポーツクリニックなど3.3 リハビリテーションの方法と期間3.4 ゴルフへの復帰時期の見極め4 まとめ5 参考文献 ゴルフで起こりやすい怪我の種類と症状 ゴルフは幅広い年齢層で楽しまれていますが、全身運動であるが故に、身体への負担も大きく、怪我のリスクが潜んでいます。 腰痛 ゴルフスイングでは、腰を捻る動作を繰り返し、インパクトの瞬間には、なんと体重の何倍もの負荷が腰にかかります。腰は身体の支柱であり、上半身と下半身をつなぐ重要な部位です。この部分に繰り返し大きな力が加わることで、筋肉や靭帯、椎間板などに負担がかかり、腰痛が発生します。 肘の痛み ゴルフ肘(内側上顆炎)は、手首を曲げる筋肉の使い過ぎで肘の内側に痛みや腫れが生じる症状です。ゴルフスイングのように手首を繰り返し使う動作で悪化しやすく、安静にしていても痛むことがあります。一方、テニス肘(外側上顆炎)は、手首を伸ばす筋肉の使い過ぎで肘の外側に痛みや腫れが生じます。 手首の痛み:TFCC損傷など 手首の痛みは、ゴルフクラブを握る、スイングするといった動作で手首に負担がかかり続けることで起こります。TFCC損傷とは、手首の小指側にある三角線維軟骨複合体(TFCC)という組織が損傷する怪我です。手首の捻挫も起こりやすく、痛みや腫れ、動かしにくさ、クリック音などの症状が現れます。 肩の痛み:腱板炎、インピンジメント症候群など ゴルフスイングのように肩関節の可動域を大きく使うスポーツでは、肩の痛みも起こりやすいです。肩のインナーマッスルである腱板が炎症を起こす腱板炎では、肩を動かすと痛みを感じます。インピンジメント症候群は、肩峰下滑液包という組織が挟まれることで炎症を起こし、痛みを生じます。 背中の痛み:筋肉の炎症、椎間板ヘルニアなど ゴルフスイングは身体を捻る動作を伴うため、背中の筋肉にも負担がかかります。長時間のプレーや急激なスイングが原因で、筋肉の炎症や椎間板ヘルニアなどが起こり、背中の痛みが出ることがあります。 膝の痛み:半月板損傷、靭帯損傷など ゴルフでは、スイング中の体重移動やミスショットで膝を痛めることがあります。半月板損傷は、膝関節にある半月板という軟骨が損傷する怪我です。靭帯損傷は、膝関節を支える靭帯が損傷する怪我です。どちらも、膝の痛みや腫れ、動かしにくさ、不安定感などの症状が現れます。 ゴルフの怪我の予防と応急処置 整形外科専門医の立場から、怪我の予防と応急処置について解説します。ゴルフを長く安全に楽しむためのポイントをまとめましたので、ぜひご一読ください。 ウォーミングアップの重要性 ウォーミングアップは、ゴルフでの怪我予防に欠かせません。準備運動をせずに急にスイングを行うと、筋肉や関節、靭帯などが損傷するリスクが高まります。特に、寒い時期や運動不足の方は、念入りなウォーミングアップを行いましょう。 ウォーキング:5~10分程度のウォーキングで、全身の血流を良くし、筋肉の温度を上げます。筋肉が温まると柔軟性が向上し、怪我をしにくくなります。 ストレッチ:肩回し、首回し、腰回しなど、ゴルフで使う関節を中心にストレッチを行います。可動域を広げることで、スイング中の関節への負担を軽減できます。 素振り:軽い素振りで、ゴルフの動きに身体を慣らしていきます。クラブの重さやスイングの感覚を確かめ、スムーズなスイングにつなげましょう。 ウォーミングアップ不足は、ゴルフカート関連の事故にも繋がります。身体が十分に準備されていない状態でカートを運転すると、思わぬ事故を起こしてしまう可能性があります。安全運転のためにも、ウォーミングアップは重要です。 正しいフォームの習得 ゴルフのスイングは、間違ったフォームで行うと身体に大きな負担がかかり、怪我に繋がることがあります。自己流のスイングを続けていると、特定の筋肉や関節に過剰な負荷がかかり、慢性的な痛みや炎症を引き起こす可能性があります。正しいフォームを身につけることは、怪我の予防だけでなく、飛距離アップにも繋がります。 正しいフォームを身につけるには、ゴルフの専門家であるレッスンプロに指導を受けるのがおすすめです。自分自身のクセや弱点を知り、適切なアドバイスを受けることで、効率的なスイングを習得できます。 適切なギアの選択 自分に合ったゴルフクラブやシューズ、グローブを選ぶことも、怪我の予防に繋がります。特にゴルフクラブは、自分の体格やスイングに合っていないものを使うと、身体への負担が大きくなり、怪我のリスクが高まります。 ゴルフクラブ:長さ、重さ、シャフトの硬さなどが自分に合っているかを確認しましょう。合わないクラブを使用し続けると、手首や肘、肩などに負担がかかり、炎症を起こす可能性があります。 シューズ:サイズが合っているか、滑りにくいかを確認しましょう。適切なシューズは、スイング中の安定性を高め、足腰への負担を軽減します。 グローブ:サイズが合っているか、グリップ力が高いかを確認しましょう。グリップ力の高いグローブは、クラブをしっかりと握ることができ、スイングの安定性とコントロール性を向上させます。 ゴルフショップの店員に相談しながら、自分に最適なギアを選びましょう。 怪我発生時の応急処置:RICE処置 ゴルフ中に怪我をしてしまった場合は、RICE処置を行いましょう。RICE処置とは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の4つの手順を指します。 Rest(安静):怪我をした部分を動かさずに安静にします。安静にすることで、患部の炎症の悪化を防ぎます。 Ice(冷却):氷嚢や保冷剤などで、怪我をした部分を冷やします。冷却することで、痛みや腫れを軽減します。 Compression(圧迫):弾性包帯などで、怪我をした部分を圧迫します。圧迫することで、内出血や腫れを抑えます。 Elevation(挙上):怪我をした部分を心臓より高く上げます。挙上することで、血流を良くし、腫れを軽減します。 RICE処置は応急処置であり、根本的な治療ではありません。痛みが続く場合は、必ず医療機関を受診しましょう。 ゴルフカート乗車時の注意点 ゴルフカートは便利な乗り物ですが、乗車中の事故にも注意が必要です。急発進、急ブレーキ、急ハンドルは避け、安全運転を心がけましょう。乗客の安全を守るためにも、周囲の状況をよく確認し、安全な速度で運転することが大切です。近年、ゴルフカート関連の怪我は増加傾向にあり、深刻な問題となっています。運転手だけでなく、歩行者も注意が必要です。 安全運転を心がけることはもちろん、コースの状況や他のプレーヤーの位置にも気を配り、安全なプレーを心がけましょう。 ゴルフの怪我の治療とリハビリ ゴルフは生涯楽しめるスポーツですが、年齢を重ねると共に怪我のリスクも高まります。若い頃は多少無理をしても回復が早かったかもしれませんが、40代、50代になるとそうはいきません。肩や腰、肘などに痛みを抱えながらプレーしている方も多いのではないでしょうか。 怪我を放置すると慢性化し、ゴルフを楽しめなくなるだけでなく、日常生活にも支障をきたす可能性があります。早期に適切な治療とリハビリを行うことで、痛みを軽減し、再びゴルフコースに立てるようにサポートいたします。 痛みや腫れを抑える方法 ゴルフ中に痛みや腫れを感じたら、まず応急処置として前述したRICE処置を行いましょう。 RICE処置はあくまで応急処置です。症状が続く場合は、医療機関を受診しましょう。 医療機関の受診:整形外科、スポーツクリニックなど 「少し痛むくらいなら大丈夫」と安易に考えて放置すると、症状が悪化し、慢性的な痛みや機能障害につながる可能性があります。 整形外科を受診することで、レントゲン検査やMRI検査などを通じて、正確な診断を受けることができます。当院では、患者様一人ひとりの症状や状態に合わせて、適切な治療方針を決定します。 例えば、痛みの原因が炎症であれば、消炎鎮痛剤の処方や注射による治療を行います。当院では、難治性の腱の炎症に対しては、最新の治療である体外衝撃波治療(ショックマスター)を行っています。神経が圧迫されている場合は、従来の治療に加え、装具療法や手術が必要になることもあります。自己判断で市販薬を服用するのではなく、専門医の診察を受けるようにしてください。 リハビリテーションの方法と期間 リハビリテーションは、怪我からの回復を促進し、ゴルフへの早期復帰を目指す上で非常に重要です。当院では、理学療法士による専門的なリハビリテーションを提供しています。 リハビリテーションの内容は、患者様の症状や状態に合わせて個別に設定します。ストレッチ、筋力トレーニング、マッサージ、電気治療など、様々な方法を組み合わせ、痛みの軽減、関節可動域の改善、筋力強化などを図ります。 リハビリテーションの期間は、怪我の程度や患者様の回復状況によって大きく異なります。数週間で終了する場合もあれば、数ヶ月かかる場合もあります。焦らず、医師や理学療法士の指示に従って、しっかりとリハビリテーションに取り組むことが大切です。 ゴルフへの復帰時期の見極め ゴルフへの復帰は、痛みが完全に消失し、以前と同じように身体を動かせるようになってからにしましょう。焦って復帰すると、怪我を再発させるリスクが高まります。 当院では、患者様の状態を慎重に確認し、安全にゴルフに復帰できる時期を判断します。復帰後も、無理なプレーは避け、徐々に運動強度を上げていくようにしてください。 まとめ ゴルフで起こる様々な怪我について、原因や症状、治療法、予防法まで幅広く解説しました。 ゴルフは全身運動であるがゆえに、腰痛、肘の痛み、手首の痛み、肩の痛み、背中の痛み、膝の痛みなど、様々な部位に負担がかかりやすいスポーツです。これらの怪我は、スイングの繰り返しや間違ったフォーム、不適切なギアの選択などが原因で起こることがあります。 怪我を予防するためには、ウォーミングアップをしっかり行い、正しいフォームを習得し、適切なギアを選ぶことが大切です。また、怪我をしてしまった場合は、RICE処置を行い、医療機関を受診しましょう。 ゴルフを長く楽しむためには、日頃から身体のケアを心がけ、怪我の予防に努めることが重要です。痛みや違和感を感じたら、放置せずに専門医に相談し、適切な治療とリハビリを受けるようにしましょう。 参考文献 Loftice J, Fleisig GS, Zheng N, Andrews JR. “Biomechanics of the elbow in sports.” Clinics in sports medicine 23, no. 4 (2004): 519-30, vii-viii. Lau D, Esbati T, Cusimano MD. “Measures to prevent golf cart-related injuries are urgently needed.” CMAJ 196, no. 33 (2024): E1151-E1152. 野球肘の治療法|年齢・重症度別の効果的なアプローチ バスケットボールで起こる怪我。専門医が原因から治療法まで解説 ゴルフで起こる怪我。専門医が原因から治療法まで解説 お盆休みのお知らせ 放射線技師(パート)