野球肘の治療法|年齢・重症度別の効果的なアプローチ

野球肘の症状と原因を理解するポイント

野球少年にとって、肘の痛みは大きな悩みの種です。野球肘は、まさに頑張っている証とも言えます。

しかし、肘の痛みを我慢してプレーを続けると、将来野球ができなくなる可能性も出てきます。だからこそ、野球肘の症状と原因を正しく理解し、適切な治療を受けることが重要です。

当院では、スポーツ整形外科医として、多くの野球少年の肘の痛みを診てきました。そこで今回は、野球肘の症状と原因について、わかりやすく解説します。

野球肘の初期症状:痛みや違和感

野球肘の初期症状は、投球後や日常生活で肘に痛みや違和感を感じることです。

具体的には、以下のような症状が現れます。

  • 肘の内側や外側に痛みがある
  • 肘を動かすと痛みが強くなる
  • 肘が腫れている
  • 肘の曲げ伸ばしがしにくい
  • 指先にしびれを感じる

これらの症状は、肘の関節や靭帯(じんたい:骨と骨をつなぐ組織)、骨、神経などに負担がかかり、炎症や損傷が起きているサインです。

特に、投球後に肘の痛みや違和感を感じ始め、次第に日常生活でも痛みが出るようになる場合は、野球肘の可能性が高いと言えるでしょう。

野球肘の種類:内側型と外側型

野球肘は、大きく分けて内側型と外側型に分類されます。これは、痛みが生じる場所によって分けられています。

  • 内側型: 肘の内側に痛みが出ます。投球動作で肘の内側の靭帯や筋肉が引っ張られることで、炎症や損傷を起こします。進行すると、靭帯断裂や神経の圧迫による指先のしびれ、握力低下といった症状が現れることもあります。
    2011年から2021年の日本の青少年野球選手における肘の怪我に関する調査によると、内側型は外側型よりも多く発生していることが分かっています。

  • 外側型: 肘の外側に痛みが出ます。投球動作で肘の外側の骨や軟骨が圧迫されたり、引っ張られたりすることで、炎症や損傷を起こします。成長期の子供の場合は、骨が剥がれてしまうこともあります。

野球肘になりやすい年齢とポジション

野球肘は、成長期にある小中学生の野球選手、特に投手に多くみられます。

成長期の骨は、大人に比べて柔らかく、まだ成長過程にあるため、繰り返しの投球動作によるストレスに耐えられにくいのです。特に、小学生から中学生の年代では、骨端線(こったんせん:骨の成長する部分)が未熟なため、肘を痛めやすい状態にあります。

また、投手は他のポジションに比べて投球回数が圧倒的に多いため、肘への負担が大きくなり、野球肘のリスクが高まります。

投球フォームと肘への負担の関係

投球フォームと野球肘の発症には、密接な関係があります。肩、肘、体幹の動きの組み合わせが肘関節への負荷に影響を与えるという研究結果もあります。。

正しい投球フォームを身につけることは、野球肘の予防・改善に非常に重要です。

野球肘の治療法

保存療法:投球制限、消炎鎮痛剤

保存療法は、手術をせずに身体の自然治癒力を活用する治療法です。初期の野球肘や症状が軽い場合に有効です。

  • 投球制限: 肘への負担を軽減するため、一定期間投球を休みます。この期間は、日常生活で痛みがない状態を保つことと、組織の修復を促す上で非常に重要です。目安は数週間から数ヶ月で、痛みの程度や組織の損傷度合いに応じて、医師が判断します。
  • 消炎鎮痛剤: 炎症や痛みを抑える薬を、内服または外用します。炎症を抑えることで、治癒を促進する効果が期待できます。医師の指示に従って服用することが大切です。

リハビリテーション:ストレッチ、筋力トレーニング

リハビリテーションは、低下した肘の機能を回復させ、再発を予防するためのトレーニングです。保存療法と並行して行う場合や、保存療法である程度の痛みが軽減した後に開始する場合もあります。

  • ストレッチ: 肘関節周辺の筋肉の柔軟性を高めます。筋肉が硬いと関節の動きが悪くなり、負担がかかりやすくなるため、ストレッチで柔軟性を保つことが重要です。
  • 筋力トレーニング: 肘関節周辺の筋肉を強化し、関節を安定させます。適切な筋力は、投球動作で肘にかかる負担を軽減し、再発予防に繋がります。チューブトレーニングやダンベルを用いたトレーニングなど、様々な方法があります。

PRP療法、体外衝撃波治療などの再生医療

PRP療法、体外衝撃波治療などの再生医療は、損傷した組織の再生を促す治療法です。保存療法やリハビリテーションで効果が不十分な場合に検討されます。

  • PRP療法: 自分の血液から採取した多血小板血漿(PRP)を患部に注射します。PRPには、組織の修復を促進する成長因子が豊富に含まれており、治癒を早める効果が期待できます。
  • 体外衝撃波治療:体の外から衝撃波を患部に当てることで、痛みや炎症を抑え、組織の修復を促す治療法です。手術と異なり身体への負担が少ないため、早期回復も期待できます。当院では、体外衝撃波治療を導入しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

    >>腱の痛みに対する体外衝撃波治療の有用性は?

手術療法:関節鏡手術、トミー・ジョン手術

保存療法や再生医療で効果が見られない場合や、重症例では手術が必要になります。

  • 関節鏡手術: 関節内に小さなカメラと器具を挿入し、損傷した組織を修復したり遊離体(関節内に浮遊する軟骨や骨片)を除去したりする手術です。傷が小さく、術後の回復も比較的早いというメリットがあります。
  • トミー・ジョン手術: 正式名称は「尺側側副靭帯再建術」と言い、肘の内側にある靭帯が断裂した場合に行われます。断裂した靭帯を再建する手術で、自分の腱や人工靭帯を用います。

各治療法のメリット・デメリットと選び方

治療法の選択は、年齢、症状の重症度、競技レベル、日常生活への影響などを考慮し、医師と相談しながら決定します。

それぞれの治療法の特徴を理解し、ご自身に合った治療法を選択することで、一日も早く野球に復帰し、思い切りプレーできるようになりましょう。

野球肘を予防・再発防止するための対策

野球肘は、若い野球選手にとって大きな悩みの種です。大好きな野球を思いっきり楽しむためにも、野球肘の予防と再発防止はとても重要です。

正しい投球フォームの習得

正しい投球フォームは、肘への負担を軽減するために非常に大切です。なぜなら、不適切なフォームで繰り返し投球を行うと、肘に過度なストレスがかかり、痛みや炎症を引き起こすからです。

肩や体全体を使ったダイナミックなフォームを身につけることで、肘への負担を最小限に抑えることができます。投球動作における肩、肘、体幹の動きの組み合わせが、肘関節への負荷に影響を与えます。例えば、体幹の回旋が不十分なまま腕を振ると、肘への負担が増大します。

理想的な投球フォームを身につけるには、専門家に見てもらいながら練習することが効果的です。自分一人で練習するよりも、客観的な視点からアドバイスをもらえるため、より効果的にフォームを改善できます。

当院では、院長の長年にわたる投球運動解析研究の成果を臨床に活かし、最先端の治療とリハビリテーションを提供しています。

>>プロ野球チームと院長の投球障害予防に関する共著論文が掲載されました。
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202502251271007474

適切なウォーミングアップとクールダウン

ウォーミングアップは、投球練習を始める前の準備体操です。肩や肘の関節、筋肉をゆっくりと動かし、体温を上げて血行を良くすることで、ケガをしにくい状態を作ります。

ウォーミングアップ不足の状態では、筋肉や関節の柔軟性が低下しているため、急な動きに対応できず、怪我のリスクが高まります。逆に、ウォーミングアップを行うことで、筋肉や関節の柔軟性が向上し、怪我の予防に繋がります。

クールダウンは、練習後の整理体操で、使った筋肉をリラックスさせ、疲労物質の排出を促します。激しい運動後には、筋肉中に疲労物質が蓄積し、筋肉痛や炎症の原因となります。クールダウンを行うことで、これらの疲労物質の排出を促進し、筋肉痛や炎症の予防に繋がります。

ウォーミングアップとクールダウンはセットで行うことで、より効果的に怪我の予防と疲労回復を促すことができます。

肘周りの筋肉の強化

肘周りの筋肉を鍛えることは、肘関節を安定させ、怪我をしにくい状態を作るために重要です。適切な筋力は、投球動作で肘にかかる負担を軽減し、再発予防にも繋がります。

具体的には、前腕の筋肉(前腕屈筋群、前腕伸筋群)や上腕の筋肉(上腕二頭筋、上腕三頭筋)などを鍛えることが重要です。これらの筋肉が強くなることで、肘関節にかかるストレスを分散させ、怪我のリスクを軽減できます。

適切なトレーニング方法としては、チューブトレーニングやダンベルを使った筋力トレーニングなどがあります。これらのトレーニングは、専門家の指導を受けることが理想的です。自己流で行うと、間違ったフォームでトレーニングをしてしまい、逆に怪我のリスクを高めてしまう可能性があります。

違和感を感じたら早期の受診

肘に少しでも違和感を感じたら、すぐに専門医に診てもらうことが大切です。痛みがなくても、違和感や動きの悪さを感じたら、早期に受診しましょう。

初期の野球肘であれば、保存療法で改善する可能性が高いです。しかし、症状を放置すると、重症化し、手術が必要になる場合もあります。そのため、早期発見、早期治療によって、重症化を防ぎ、早期復帰を目指しましょう。

当院では、整形外科専門医が、野球肘の診察、治療を行っています。肘の痛みや違和感でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

まとめ

野球肘の治療法について、年齢や重症度に合わせた様々なアプローチをご紹介しました。保存療法やリハビリ、再生医療、手術療法など、それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身の状況に合った治療法を選択することが大切です。

また、正しい投球フォームの習得やウォーミングアップ、クールダウン、筋力トレーニングなど、日々のケアも野球肘の予防と再発防止に繋がります。肘に違和感を感じたら、我慢せずに早めに専門医に相談しましょう。野球を長く楽しむためにも、これらの情報があなたの参考になれば幸いです。

参考文献

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  • Kouno C, Onishi M, Kawabe R, Doi N, Tahu Y, Nagai-Tanima M, Aoyama T. Incidence and characteristics of elbow injury in Japanese youth baseball players: comparison between 2011 and 2021. Orthop J Sports Med. 2023 Oct 13;11(10):23259671231200844. doi: 10.1177/23259671231200844.