ゴルフ肘の治療法|専門医が教える改善アプローチ

ゴルフ肘の原因となる要因4つ

ゴルフ肘、正式には内側上顆炎は、肘の内側の痛みや不快感を引き起こします。ゴルフをする人に多くみられますが、ゴルフ以外でも、手首や指を繰り返し使う動作をする人に起こりうる症状です。

日常生活に支障をきたすこともあるため、原因を理解し、適切な対策をとることが重要です。整形外科専門医の立場から、ゴルフ肘を引き起こす主な要因を4つに分けて解説します。

1 繰り返し動作の影響

ゴルフ肘の最も一般的な原因は、手首や指の屈筋腱への繰り返しの負荷です。

ゴルフスイングのように、手首を曲げる動作を何度も行うと、肘の内側にある内側上顆(ないそくじょうか)と呼ばれる部分に付着している腱に炎症が起き、痛みが生じます。内側上顆とは、上腕骨(肘から肩にかけての骨)の内側にある出っ張りのことです。

ゴルフ以外にも、野球、テニス、パソコン作業、料理、大工仕事など、手首を繰り返し使う作業やスポーツも、ゴルフ肘の原因となります。

  • ゴルフ: 特に初心者の場合、グリップの握りすぎやスイングフォームの誤りによって、手首に過剰な負担がかかりやすいです。
  • 仕事: パソコン作業や手作業が多い職業の方も、ゴルフ肘のリスクが高いと言えます。
  • 日常生活: 料理や掃除、洗濯など、何気ない動作でも、繰り返すことによって肘に負担がかかり、ゴルフ肘を発症することがあります。

日常生活動作で痛みを感じると、生活の質(QOL)の低下につながることがあります。

2 年齢と身体の変化

年齢を重ねると、腱や筋肉の柔軟性が低下し、損傷しやすくなります。40代以降は、加齢による身体の変化もゴルフ肘のリスクを高める要因の一つとなります。

  • 腱の変性: 年齢とともに腱の組織が変性し、弾力性が失われることで、損傷しやすくなります。変性とは、組織の性質が変化することです。
  • 筋肉の衰え: 筋肉が衰えると、腱への負担が増加し、炎症を起こしやすくなります。
  • 血行不良: 加齢に伴う血行不良も、腱の修復を遅らせ、ゴルフ肘の治癒を妨げる要因となります。

適切なケアをせずに放置すると、慢性化し日常生活に支障をきたす恐れがあります。

3 適切なストレッチ不足

ゴルフなどのスポーツを行う前には、適切なウォーミングアップとストレッチを行うことが大切です。ストレッチ不足は筋肉や腱の柔軟性を低下させ、ゴルフ肘のリスクを高めます。特に、手首や前腕のストレッチを怠ると、スイングなどの動作で肘に大きな負担がかかり、炎症を引き起こしやすくなります。

4 不適切なフォーム

ゴルフ肘は、間違ったゴルフフォームによって引き起こされることが多いです。特に、ダウンスイングで手首を過度にこねたり、インパクトで手首が甲側に折れ曲がったりする(フリップする)と、肘の内側に大きな負担がかかります。ダウンスイングとはゴルフクラブを振り下ろす動作、インパクトとはクラブヘッドがボールに当たる瞬間のことです。

正しいゴルフフォームを身につけることは、ゴルフ肘の予防だけでなく、ゴルフの上達にも繋がるため、専門家の指導を受けることをおすすめします。

  • グリップ: グリップの握り方や強さも、ゴルフ肘に影響を与えます。グリップとは、ゴルフクラブの握りの部分のことです。
  • アドレス: 正しいアドレスで構えることで、スイング中の体のバランスを保ち、肘への負担を軽減できます。アドレスとは、ゴルフボールを打つ前に構える姿勢のことです。
  • スイング: スムーズで無駄のないスイングを身につけることで、手首への負担を最小限に抑えられます。

>>ゴルフで起こる怪我。専門医が原因から治療法まで解説

ゴルフ肘の治療法

ゴルフ肘の痛み、辛いですね。日常生活でも、ドアノブを回す、タオルを絞るといった動作で痛みが走るため、とても不便です。早く治したい、ゴルフを再開したいけれど手術は避けたい…など、患者さんによって様々な不安やお悩みを抱えていることでしょう。

整形外科専門医の立場から、それぞれの治療法の特徴を詳しく解説します。最適な治療法を選択するために、ぜひ参考にしてください。

保存療法:リハビリと物理療法

保存療法は、手術をせずにゴルフ肘を治療する方法です。多くの場合、まずこの保存療法から開始します。

保存療法の目的は、炎症を抑え、痛みを軽減し、肘関節の機能を回復させることです。具体的には下記のような方法があります。

  • 安静: 肘への負担を軽減するため、ゴルフなどの運動は控え、痛みが強い時期は、日常生活動作でも肘を安静にします。
  • ストレッチ: 筋肉の柔軟性を改善し、痛みを和らげます。前腕屈筋群(肘から手首にかけての手のひら側の筋肉)のストレッチを、整形外科専門医や理学療法士の指導のもと、適切に行いましょう。
  • 装具療法: サポーターやテーピングで肘関節を固定し、安静を保ちます。日常生活での負担を軽減する効果も期待できます。

薬物療法

痛みや炎症が強い場合は、薬物療法が用いられます。

主に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの消炎鎮痛剤が処方されます。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、炎症や痛みを引き起こす物質であるプロスタグランジンの産生を抑えることで効果を発揮します。これらの薬は、痛みや炎症を抑える効果がありますが、胃腸障害などの副作用が生じる可能性もあるため、医師の指示に従って適切に服用することが大切です。内服薬だけでなく、湿布薬や塗り薬などの外用薬を使用することもあります。

注射療法

痛みが強い場合や、他の治療法で効果が不十分な場合、ステロイド注射を行うことがあります。ステロイドとは副腎皮質ホルモンのことで、強力な抗炎症作用があります。ステロイド注射は、短期間で痛みを軽減する効果が期待できます。

しかし、ステロイド注射は繰り返し行うと腱を弱める可能性があるため、回数や頻度に制限があります。また、注射部位の疼痛、皮膚の色素沈着、感染などのリスクもゼロではありません。

手術療法

保存療法や注射療法で効果がない場合、手術療法が検討されます。手術が必要となるケースは稀ですが、日常生活に大きな支障が出ている場合や、ゴルフを競技として続けたい強い希望がある場合は、検討する価値があります。手術では、損傷した腱を修復したり、炎症を起こしている組織を取り除いたりします。

まとめ

ゴルフ肘の治療法について解説してきましたが、最後に重要なポイントをまとめます。ゴルフ肘は、繰り返しの動作や加齢、フォームの悪さなどが原因で起こる肘の内側の痛みです。

治療法は保存療法から手術療法までありますが、まずは整形外科専門医を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。早期に治療を開始することで、症状の悪化や慢性化を防ぎ、日常生活への復帰を早めることができます。

参考文献

  • Terlezky S, Amster Kahn H, Saleh S, Gannot G, Oron A. MEDIAL EPICONDYLITIS (GOLFER’S ELBOW) – CLINICAL PRESENTATION AND TREATMENT. [Article in Hebrew]. PMID: 35979571
むとう整形外科・MRIクリニック