突然肩が上がらなくなったら…
想像しただけで不安になりますよね? 日常生活に支障をきたすだけでなく、放置すると重症化する可能性もある「肩が上がらない」問題。
実は、その原因は実に様々で多くの可能性が潜んでいます。
この記事では、肩が上がらなくなる原因を徹底解説。
この記事で原因を特定し、適切な対処法を見つけることで、快適な日常生活を取り戻せるかもしれません。 あなたの症状に合った解決策を探りましょう。
目次
原因
肩が上がらなくなる原因は実に様々です。肩の関節やそれを取り囲む筋肉、腱、靭帯などに、何かしらのトラブルが発生しているサインかもしれません。一体何が原因なのでしょうか?
インピンジメント症候群
インピンジメント症候群は、腕を上げた時に肩峰と呼ばれる肩甲骨の一部と、その下を通る腱がぶつかり、炎症を起こして痛みを生じる病気です。肩の痛みで最も一般的な診断の一つです。「インピンジメント」とは「衝突」を意味し、まさに肩の骨と腱が衝突することで生じる症状です。
症状は、腕を上げた時に肩に痛みを感じたり、夜間に痛みが増したりすることが特徴です。さらに、腕を特定の角度に動かした際に、肩にズキッとした鋭い痛みを感じることもあります。
例えば、野球のピッチャーが力強いボールを投げた後や、バレーボールのアタッカーがスパイクを打った後に肩に痛みを感じたとします。これは、腕を繰り返し頭上に上げる動作によって、肩峰と腱が衝突(インピンジメント)し、炎症を起こしている可能性があります。
四十肩、五十肩
四十肩、五十肩は、40歳以降に多く発症する肩関節周囲炎と呼ばれる病気で、肩関節の動きが悪くなり、強い痛みを伴います。これは、肩関節を包む袋状の組織(関節包)や腱に炎症が起き、肩の動きが制限されます。加齢や肩の使い過ぎ、糖尿病などが関係していると考えられています。
炎症期、拘縮期、回復期の3つの段階を経て、多くの場合自然治癒します。
炎症期は、炎症が強く安静時にも痛みがある時期です。この期間は数週間から数ヶ月続くことがあります。次に、拘縮期に入ると痛みは軽減しますが、肩の動きが悪くなります。そして最後に回復期に入り、痛みと動きの制限が徐々に改善していきます。完治までは数ヶ月から1年以上かかることもあります。
自然治癒するとはいえ、適切な治療を行うことで、痛みの軽減や回復期間の短縮が期待できます。例えば、理学療法では、関節可動域訓練やストレッチングなどを通じて肩の動きを改善していきます。
>>四十肩・五十肩は病院へいくべき?受診の目安と適切な診療科を解説
その他
肩が上がらなくなる原因は、インピンジメント症候群や四十肩、五十肩以外にも、関節リウマチなどの関節炎、腱板断裂、上腕二頭筋長頭腱炎などの腱の損傷などがあります。
関節リウマチは、免疫システムの異常によって関節に炎症が起きる病気です。肩関節以外にも手足の関節に症状が現れることもあります。
腱板断裂は、肩関節を安定させる役割を持つ腱板が損傷してしまうことです。転倒など強い衝撃が加わった際に起こりやすい損傷です。
上腕二頭筋長頭腱炎は、いわゆる力こぶを作る筋肉である上腕二頭筋の腱に炎症が起きる病気です。重いものを持ち上げたり、腕をひねる動作を繰り返すことで発症しやすくなります。
これらの病気は、それぞれ症状や治療法が異なります。肩の痛みや動きの制限を感じたら、自己判断せずに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
診断方法
医療機関では、どのような手順で診断が行われるのでしょうか。今回は、そのプロセスを具体的にご説明します。
医師による診察と問診
まず、医師はあなたの症状について詳しく問診を行います。「いつから肩が上がらなくなったのか」「どのような動作で痛みが出るのか」「痛みの程度はどのくらいか」「他に症状はあるか」など、具体的な状況を把握するために、様々な質問をさせていただきます。
問診に加えて、医師は実際にあなたの肩を動かしたり、触ったりして診察を行います。肩の動きの範囲や、筋肉の硬さ、特定の部位を押した時の痛みなどを確認することで、原因を特定するための手がかりを探ります。
例えば、腕を真横に上げていく際に、どの角度で痛みが出始めるか、どの角度まで上げることができるかを確認します。また、肩の関節だけでなく、首や背骨の動きも確認することで、肩の痛みに関連する他の問題がないかを調べます。
これらの診察と問診を通して、おおよその原因を推測し、詳しい検査が必要かどうかを判断します。
レントゲン、MRI検査
レントゲン検査では、骨の異常や関節の状態、骨棘の有無などを確認できます。
また、MRI検査では、レントゲンでは写らない筋肉、腱、靭帯、関節包などの軟部組織の状態をより詳細に確認することができます。
例えば、腱板断裂や靭帯損傷、炎症の程度などを確認することができます。四十肩、五十肩では、レントゲン写真に異常がないことが多い一方で、MRI検査では断裂や炎症の状態を明確に確認できます。
これらの検査結果と、診察・問診の結果を総合的に判断することで、より正確な診断が可能になります。

治療法
理学療法
理学療法は、肩の痛みや可動域制限を改善するための運動療法や物理療法を中心とした治療法です。専門家である理学療法士の指導のもと、個々の症状に合わせたプログラムを作成し、肩の機能回復を目指します。
例えば、四十肩、五十肩は3段階の経過をたどります。理学療法はこれらの時期に応じて適切な運動を選択することで、よりスムーズな回復をサポートします。
痛みが強い時期には、無理に動かすのではなく、炎症を抑える治療を優先します。痛みが落ち着いてきたら、関節の可動域を広げる運動を徐々に開始し、日常生活への復帰を目指します。
また、肩のインピンジメント症候群においても理学療法は有効です。肩甲骨周囲の筋肉のトレーニングやストレッチングによって、肩関節の安定性を高め、腱と骨の衝突を軽減することで、痛みや炎症の改善を図ります。

薬物療法
痛みが強い場合は、薬物療法が用いられます。痛みや炎症を抑える薬は、症状を和らげ、理学療法などの他の治療を受けやすくする効果があります。
例えば、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、痛みや炎症を軽減する効果があり、肩のインピンジメント症候群や四十肩などでよく処方されます。日常生活での痛みが強い場合は、経口薬で対応し、局所の炎症が強い場合は、関節内注射を行うこともあります。
手術
ほとんどの肩の痛みは、保存療法(手術以外の治療)で改善しますが、症状が重く、保存療法で効果がない場合には、手術が検討されることもあります。
例えば、肩のインピンジメント症候群で、腱板断裂や骨棘形成などの構造的な問題が明らかで、痛みが強い場合、手術によってこれらの問題を解消することで、症状の改善が期待できます。
腱板断裂では、断裂の程度や部位、患者さんの年齢や活動レベルなどを考慮して、手術の方法を決定します。
また、四十肩、五十肩で関節が非常に硬くなり、日常生活に大きな支障が出ている場合にも、手術によって関節の動きを改善することがあります。保存療法で十分な効果が得られない場合や、関節拘縮が進行している場合に手術が適応となります。
手術は最終手段であり、患者さんの状態や希望を十分に考慮した上で、慎重に判断する必要があります。
セルフケア
肩の痛みを和らげるためには、日常生活でのセルフケアも大切です。
- 安静にする: 痛みが強いときは、無理に肩を動かさないようにし、安静を保つことが重要です。
- 温める: 温めることで、血行が促進され、痛みが和らぎ、筋肉の緊張も緩和されます。
- 正しい姿勢を保つ: 猫背などの悪い姿勢は、肩への負担を増大させ、痛みを悪化させる可能性があります。日頃から正しい姿勢を意識しましょう。
- ストレッチ: 肩甲骨を動かすストレッチや、肩の筋肉を伸ばすストレッチは、肩こりの予防や改善に効果的です。痛みのない範囲で、無理なく行いましょう。就寝前や起床後など、習慣的に行うことが効果的です。
これらのセルフケアは、症状の改善だけでなく、再発予防にもつながります。毎日の生活に取り入れることで、健康な肩を維持しましょう。
まとめ
この記事では、肩が上がらない原因となる様々な病気や、その診断、治療法について詳しく解説しました。
四十肩や肩のインピンジメント症候群といった代表的な疾患から、関節リウマチや腱板断裂など、様々な可能性について触れました。 自己判断せず、まずは医療機関を受診することが大切です。医師による問診や診察、レントゲンやMRIといった検査を通じて、正確な診断を受けることで、適切な治療法を選択できます。
治療法としては、理学療法、薬物療法、手術などがあり、症状や状態に合わせて最適な方法が選ばれます。 多くの場合、保存療法で改善しますが、重症の場合は手術が必要となることもあります。
さらに、日常生活におけるセルフケアも重要です。安静、温熱療法、正しい姿勢、適切なストレッチなどを心がけ、再発防止にも努めましょう。
肩の痛みは放置すると悪化することもあります。 少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診し、専門家のアドバイスを受け、快適な生活を取り戻しましょう。
参考文献
- Horowitz EH and Aibinder WR. “Shoulder Impingement Syndrome.” Physical medicine and rehabilitation clinics of North America 34, no. 2 (2023): 311-334.
- Chan HBY, Pua PY and How CH. “Physical therapy in the management of frozen shoulder.” Singapore medical journal 58, no. 12 (2017): 685-689.
