
膝の痛み、特に変形性膝関節症による痛みは、日常生活に大きな支障をきたします。
階段の上り下り、正座、長時間の歩行…どれもが苦痛になるかもしれません。
「もう手術しかないのか…」と不安を感じている方もいるのではないでしょうか。
しかし、諦めるのはまだ早いです。
変形性膝関節症の治療には、手術以外にも様々な選択肢があります。
この記事では、手術(人工膝関節置換術、単顆型膝関節置換術など)の種類と特徴を詳しく解説します。
さらに、手術以外の治療法についても詳しく解説。
手術が必要かどうか、迷っている方の判断を助ける情報を網羅しています。
快適な生活を取り戻すために、この記事を是非ご活用ください。
目次
変形性膝関節症の手術の種類と特徴
人工膝関節置換術(TKA)の概要と効果

人工膝関節置換術(TKA)は、傷んでしまった膝関節の表面を人工関節で置き換える手術です。
例えるなら、錆びて動きが悪くなったドアの蝶番を、新しいものに取り替えるようなイメージです。以下のような効果があります。
- 痛みの軽減: 多くの患者さんが、手術後に痛みが大幅に軽減したと言われます。痛みのせいで夜も眠れなかったり、痛み止めが手放せない生活を送っていた方が、手術後にはぐっすり眠れるようになった、というケースを数多く見てきました。
- 歩行能力の向上: 膝の動きがスムーズになることで、歩行が楽になります。
以前は近所のスーパーマーケットまで行くのもやっとだった方が、手術後は杖なしで歩けるようになり、行動範囲が広がったということもあります。 - 日常生活動作の改善: 正座や階段の上り下りがしやすくなるなど、日常生活動作が改善されます。
これまで家族に頼っていた家事や、趣味のガーデニングなどを、再び自分で行えるようになった方もいらっしゃいます。
TKAは、変形性膝関節症の最終段階の治療法として、最も一般的な手術方法です。人工関節の素材やデザインも日々進化しており、耐久性も向上しています。
単顆型膝関節置換術(UKA)の概要と効果
UKAは、膝関節の一部だけを人工関節に置き換える手術です。TKAと比較して、傷口が小さく、回復も早いというメリットがあります。
UKAは、初期段階の変形性膝関節症で、膝の内側か外側どちらか一方だけが傷んでいる場合に適しています。
内側が傷んでいる場合を内側型UKA、外側が傷んでいる場合を外側型UKAと呼びます。以下のような効果があります。
- 早期回復: TKAよりも入院期間が短く、日常生活への復帰も早いです。
一般的にTKAでは平均4週間程度の入院が必要ですが、UKAでは2週間程度で退院が可能になります。 - 痛みの軽減: 傷口が小さいため、術後の痛みが少ない傾向にあります。
もちろん、個人差はありますが、TKAに比べて痛み止めを飲む期間も短くて済むことが多いです。 - 自然な膝の動き: 健康な骨や靭帯を温存するため、より自然な膝の動きを維持できます。これは、UKAの大きな利点の一つです。
UKAは、正しく選択が行われればTKAと同程度の成績を示すことが研究で報告されています。但し、UKAは適応が限られるため、全ての方が受けられるわけではありません。
変形性膝関節症の手術にはTKA、UKA、の他、高位脛骨骨切り術(HTO)など、さまざまな方法があります。
最適な手術方法は、医師とよく相談して決める必要があります。
手術の適応基準と禁忌
手術適応(症状の指標)
手術が必要かどうかは、単に「痛い」か「痛くない」かだけでなく、痛みの程度、日常生活への影響、そして他の治療法の効果などを総合的に判断します。
- 痛み: 鎮痛剤を服用しても痛みが治まらず、夜も眠れないほどの激痛がある場合は、手術を検討する必要があります。
階段の上り下りが非常に困難、短い距離でも歩くと痛むといった状態も手術を考える目安になります。 - 日常生活への支障: 「以前は、孫と公園で走り回って遊んでいた70代男性の患者さんが、膝の痛みで歩くことさえ辛くなり、孫と遊ぶこともままならなくなってしまった」というケースがありました。
趣味の散歩や買い物、家事や仕事などにライフスタイルに支障が出ている場合は、生活の質を向上させるために手術が有効な手段となる可能性があります。 - 他の治療の効果: 薬物療法、リハビリテーション、ヒアルロン酸注射などの保存療法を約6ヶ月以上試しても効果がない場合、手術を検討します。
年齢や健康状態に基づく判断基準
年齢や健康状態も手術の適応を判断する上で重要な要素です。
- 高齢の方: 高齢の方だからといって手術ができないわけではありません。80代、90代の方でも手術を受け、その後元気に歩けるようになったケースを数多く見てきました。
もちろん、年齢を重ねるとともに手術のリスクは高まる傾向があるため、全身状態や合併症の有無を慎重に評価する必要があります。 - 健康な方: 比較的健康な方であれば、手術は可能です。
特にUKAは、健康な膝の構造を温存できるため、スポーツを続けたい若い患者さんにも適応となる場合があります。 - 「マラソンを趣味とする60代男性の患者さんで、内側型UKAで治療を行い、その後もマラソンを継続できているケース」を経験しています。
- 持病のある方: 糖尿病や心臓病などの持病がある場合は、手術前に適切な管理が必要です。
- これらの持病がコントロールされていないと、手術のリスクが高まる可能性があります。
手術を避けるべき場合とは
- 感染症: 感染症がある場合は、感染が治癒するまで手術を行うことができません。感染した状態で手術を行うと、人工関節にも感染が広がり、深刻な事態を引き起こす可能性があります。
- 重度の骨粗鬆症: 骨がもろくなっている場合は、人工関節を固定することが難しいため、手術を延期することがあります。骨粗鬆症の治療を行い、骨密度が改善してから手術を検討します。
- 手術に対する強い不安: 手術に対する精神的な負担が大きい場合は、手術を延期したり、他の治療法を検討したりする場合があります。
手術以外の治療法と日常生活での改善策
手術以外の主な治療法には、リハビリテーション、薬物療法、そして生活習慣の見直しがあります。これらの治療法は単独で行うこともありますが、多くの場合、組み合わせて行うことで相乗効果が期待できます。
リハビリテーション
ストレッチ: 膝関節の動きが悪くなると、周りの筋肉が硬くなってしまい、さらに痛みが増してしまうという悪循環に陥ってしまいます。この悪循環を断ち切るためには、ストレッチで筋肉の柔軟性を高めることが重要です。
例えば、タオルを使って足の指を引っ張るストレッチは、ふくらはぎの筋肉を伸ばす効果があります。その他、椅子に座って足を前方に伸ばすストレッチなども効果的です。
筋力トレーニング: 膝関節を支えているのは、周りの筋肉です。特に、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)は、膝の安定性を保つ上で非常に重要な役割を果たしています。
「以前は10分歩くのもやっとだった70代女性の方が、リハビリテーションで筋力トレーニングを継続した結果、30分歩けるようになった」というケースを経験しています。
筋力トレーニングというと、激しい運動をイメージする方もいるかもしれませんが、変形性膝関節症のリハビリテーションでは、無理のない範囲で椅子に座って行うトレーニングや、水中での運動なども行われます。
温熱療法: 温熱療法は、血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる効果があります。温熱療法には、ホットパックなどがあります。
薬物療法
消炎鎮痛剤: 変形性膝関節症の痛みには、様々な種類の痛み止めが使用されます。患者さんの症状や他の病気の有無などを考慮して医師が適切な薬を選択します。
ヒアルロン酸注射: ヒアルロン酸は、関節液の成分であり、関節の動きを滑らかにする役割を担っています。変形性膝関節症では、このヒアルロン酸が減少したり、質が悪くなったりすることで、関節の動きが悪くなり、痛みが生じます。ヒアルロン酸注射は、1週間に1回、計3~5回注射するのが一般的です。
ステロイド注射: ステロイドは強い抗炎症作用を持つ薬です。炎症が強い場合に、ステロイド注射を行うことで、速やかに痛みや腫れを抑えることができます。
ただし、ステロイド注射は、軟骨の変性を促進する可能性があるため、頻回に注射することは避けるべきです。
生活習慣の見直し
体重管理: 体重が増加すると、膝関節にかかる負担が大きくなり、軟骨の摩耗が促進されます。肥満は変形性膝関節症の大きなリスクファクターの一つです。
「約10kgの減量に成功した患者さんで、膝の痛みが劇的に改善したケース」を経験しています。
運動: 「運動すると膝が悪化するのでは?」と心配する方もいるかもしれません。しかし、適切な運動は、膝周りの筋肉を強化し、関節の安定性を高める効果があります。ウォーキングや水中ウォーキング、自転車など、膝への負担が少ない運動を選びましょう。
靴: 靴は、膝関節への衝撃を吸収する上で重要な役割を果たします。クッション性の良い靴を選ぶことで、膝への負担を軽減することができます。
サポーター: 膝サポーターは、膝関節を外部から支えることで、痛みを軽減し、関節の安定性を高める効果があります。様々な種類のサポーターがあります。医師のアドバイスをもとに、ご自身の症状や好みに合わせて適切なサポーターを選びましょう。

まとめ
この記事では、変形性膝関節症の手術の種類、適応基準、そして手術以外の治療法について解説しました。
手術は人工膝関節置換術(TKA)や単顆型膝関節置換術(UKA)などがあり、症状や状態によって最適な方法が異なります。
手術以外の治療法としては、リハビリテーション、薬物療法、生活習慣の見直しなどがあり、これらを組み合わせることで症状の改善や進行抑制が期待できます。 まずは、主治医に相談し、ご自身の状態に合った治療法を見つけることが大切です。
手術が必要ない場合、適切な保存療法と生活習慣の改善で、痛みを軽減し、快適な生活を送ることが可能になります。
諦めずに、医師と相談しながら、あなたに合った最善の治療法を選択していきましょう。
参考文献
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- Rossi R, Cottino U, Bruzzone M, Dettoni F, Bonasia DE, Rosso F. Total knee arthroplasty in the varus knee: tips and tricks. International orthopaedics 43, no. 1 (2019): 151-158.
