【肩専門医師監修】腱板疎部損傷の原因と治療法|手術しないと治らない?完治までの道のり

腱板疎部損傷は、肩関節の重要な組織が損傷することで起こる疾患で、特に野球選手やバレーボール選手といった特定のスポーツ選手に多く見られます。 この記事では、腱板疎部損傷の原因や症状、診断方法から保存療法・手術療法まで、具体的な治療法を詳しく解説します。肩の痛みにお悩みの方はぜひご一読ください。

腱板疎部損傷を理解する3つのポイント

腱板疎部損傷とは?肩関節の構造と役割

肩関節は、体の中で最もよく動く関節の一つです。腕をぐるぐる回したり、上にあげたり、色々な方向に動かすことができます。この自由な動きを可能にしているのは、肩関節の複雑な構造です。

肩関節は、上腕骨、肩甲骨、鎖骨の3つの骨からできています。これらを筋肉や靭帯が支えています。ちょうど、ボールと受け皿の関係のようなもので、上腕骨の先端部分がボール、肩甲骨の一部が受け皿の役割を果たします。この受け皿は小さく浅いため、肩関節は不安定になりやすい構造です。

肩関節には、腱板と呼ばれる、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋肉の腱が集まった部分があります。この腱板は、肩関節を安定させるためにとても重要です。

腱板疎部(けんばんそぶ)とは、肩関節の前側にある、腱板が存在しない部分のことです。腱板疎部は、烏口上腕靭帯や上関節上腕靱帯といった靭帯で補強されています。しかし、強い負荷がかかったり、使い過ぎたりすることで損傷してしまうことがあります。これが腱板疎部損傷です。ちょうど、服の袖口がほつれてしまうようなイメージです。

腱板疎部

腱板疎部損傷の原因

腱板疎部損傷の原因は様々ですが、大きく分けて3つあります。

1つ目は、加齢によるものです。年齢を重ねると、体全体の組織が老化し、腱や靭帯も柔軟性を失い、切れやすくなります。肩関節も例外ではなく、加齢とともに腱板疎部が損傷しやすくなります。50代以降の患者さんを診察していると、このタイプの損傷をよく見かけます。

2つ目は、使い過ぎによるものです。野球のピッチャーやバレーボールのアタッカーのように、腕を繰り返し動かすスポーツでは、肩関節に大きな負担がかかり、腱板疎部が損傷するリスクが高くなります。
特に投球動作では、ボールをリリースする直前に肩関節に大きなストレスがかかり、腱板疎部に負担がかかります。(下の図)私の患者さんでも、野球少年がボールを強く投げた後に肩の痛みを訴えるケースがありました。

3つ目は、外傷によるものです。転倒したり、肩を強打したりすることで、腱板疎部が損傷することがあります。交通事故で肩を強打した患者さんで、腱板疎部損傷が見られたケースがありました。

腱板疎部損傷になりやすい人の特徴

腱板疎部損傷は、特定のスポーツ選手に多く見られます。特に、野球、バレーボール、テニス、水泳など、腕を頭上に上げる動作を頻繁に行う(オーバーヘッド)スポーツ選手は、腱板疎部損傷のリスクが高いです。

また、前述したように、加齢とともに腱や靭帯が弱くなるため、高齢者も腱板疎部損傷になりやすいです。特に、若い頃に激しいスポーツをしていた人は、高齢になってから腱板疎部損傷を発症するケースが多く見られます。

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症状と診断

症状

  1. 肩関節前上方の痛み: 腱板疎部が損傷すると、安静時にも痛みを感じる場合や、腕を特定の方向に動かしたときだけ痛みが強くなる場合があります。痛みの感じ方は人それぞれで、鋭い痛み、鈍い痛み、ズキズキする痛みなど様々です。特に肩前上方に痛みが出やすいです。

  2. 肩の可動域制限: 腱板疎部損傷は、肩の動きを制限することがあります。腕を真上に上げにくくなったり、後ろに回すのが困難になったりするなど、日常生活動作に支障が出ることがあります。

  3. 夜間痛: 腱板疎部が損傷していると、夜間に痛みが強くなることがあります。これは、寝ている間に肩関節への負担が増加するためと考えられています。特に、損傷した側の肩を下にして寝ると、痛みが悪化しやすい傾向があります。

  4. クリック音: 肩を動かした際に、ゴリゴリ、ミシミシといった音が鳴る場合は、腱板疎部損傷のサインかもしれません。これは、損傷した腱板が骨と擦れ合うことで発生する音です。音が鳴るからといって必ずしも重症であるとは限りませんが、放置すると症状が悪化する可能性があるため、注意が必要です。

  5. 肩の不安定感: 腱板疎部は肩関節の安定性に関与しているため、損傷すると肩が「抜けるような感覚」や不安定感を感じることがあります。特に、腕を急に動かした時や重い物を持ち上げた時に、この不安定感が増強することがあります。

診断

腱板疎部損傷の診断には、医師による診察と画像検査が不可欠です。
診察では、問診に加えて、徒手検査と呼ばれる肩関節の動きや安定性を確認するための検査を行います。

画像検査では、レントゲン検査、関節造影検査、MRI検査などが用いられます。レントゲン検査では骨の状態を確認できます。腱板疎部損傷自体はレントゲンに写りませんが、他の疾患との鑑別に有用です。MRI検査では、腱板疎部そのものの状態を詳細に評価できます。関節造影検査は、リアルタイムで肩関節の動きを観察しながら損傷の程度を評価できるという利点があります。

治療法、予防

保存療法

  1. 投薬: 痛みや炎症を抑えるために、消炎鎮痛剤を内服します。ロキソニンやボルタレンなどが処方されることが多いです。

  2. 注射: 痛みが強い場合は、肩関節にステロイド注射を行うこともあります。ステロイドには強力な抗炎症作用があり、痛みを速やかに軽減する効果が期待できます。ただし、ステロイド注射は何度も繰り返すと腱を弱める可能性があるため、使用頻度には注意が必要です。私の経験では、スポーツ選手で痛みが強い場合に限り、短期間で集中的に注射を行うことがあります。

  3. リハビリテーション: 肩関節の可動域を改善し、筋力を強化するための運動療法や、温熱療法、電気療法などの物理療法を行います。理学療法士の指導のもと、自分に合った運動プログラムを作成してもらいましょう。例えば、肩甲骨を動かす体操や、ゴムチューブを使ったトレーニングなどが有効です。リハビリテーションは、痛みの軽減だけでなく、再発予防にも重要です。

  4. 関節内圧減圧法(Joint distension法)
    肩関節内に麻酔薬を注入し、癒着した関節包の剥離することで、関節内圧が低下します。これにより、肩関節の可動域拡大、疼痛の軽減されます。当院では施行可能です。

手術療法:直視下手術、鏡視下手術など

保存療法を3~6ヶ月行っても効果が見られない場合や、損傷の程度が大きい場合は、手術療法が検討されます。手術療法には、大きく分けて直視下手術と鏡視下手術の2種類があります。

  • 直視下手術: 皮膚を大きく切開して、損傷した腱板疎部を直接縫合する方法です。確実な縫合が可能です。
  • 鏡視下手術: 皮膚に小さな穴を数カ所開け、カメラや特殊な器具を挿入して行う手術です。傷が小さく、術後の回復も早いというメリットがあります。

腱板疎部損傷の予後と再発予防

腱板疎部損傷は、適切な治療とリハビリテーションを行うことで、多くの場合、良好な予後が期待できます。しかし、再発のリスクもあるため、日常生活での注意点や予防策を知っておくことが大切です。

再発予防には、肩関節周囲の筋力トレーニングやストレッチが効果的です。特に、腱板(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)のトレーニングは重要です。また、正しい姿勢を保つことや、肩に負担をかけすぎないことも重要です。スポーツをする場合は、ウォーミングアップを十分に行い、急に無理な動作をしないように注意しましょう。

まとめ

腱板疎部損傷について、原因や症状、治療法、リハビリ、そして予後まで詳しく解説しました。肩の痛みは、日常生活に大きな支障をきたすため、早期発見・早期治療が重要です。

少しでも不安を感じたら、迷わず医療機関を受診しましょう。保存療法で改善する場合も多いですが、手術が必要なケースもあります。医師とよく相談し、自分に合った治療法を選択することが大切です。

リハビリテーションも、完治を目指す上で重要な役割を担います。焦らず、じっくりと時間をかけて取り組むことで、肩の機能を回復させ、再発を予防しましょう。

この記事が、あなたの肩の健康を守るための一助となれば幸いです。

参考文献