ランナーの皆さん、こんにちは。私自身もいろいろな大会に救護ランナーと参加し、日々ランニングを楽しんでいる医師です。
ランニングは健康に良いと言われていますが、ランナー膝というトラブルを抱えている方が非常に多いことをご存知でしょうか?
ランナー膝は、正式には腸脛靭帯炎といい、ランナーを悩ませる代表的な症状の一つです。
この記事では、ランナー膝の原因、メカニズム、さらに効果的な予防法を詳しく解説します。ランニングを快適に続けたい方は、ぜひこの記事を読んで、ランナー膝の予防策を身につけてください。
原因
ランナー膝は、腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)という大腿の外側にある線維性の組織が、膝関節の外側にある大腿骨外側上顆という骨の出っ張りと摩擦することで炎症を起こし痛みが生じる疾患です。
腸脛靭帯は大腿筋膜張筋と大殿筋というお尻の筋肉から始まり、膝の外側を通り、脛骨(けいこつ:すねの骨)の外側に繋がっています。この腸脛靭帯は、膝の動きを安定させる役割を担っています。
ランニングなどの繰り返しの動作は、腸脛靭帯と大腿骨外側上顆への摩擦を増加させます。特に、長距離のランニングや、下り坂を走る際は、膝の屈伸運動が増え、腸脛靭帯への負担が大きくなり、ランナー膝のリスクが上昇します。
ランニング以外にも、バスケットボールやバレーボール、サッカーなど、ジャンプやストップ動作の多いスポーツでも発症しやすいです。

競技レベルによるリスクの違い
ランナー膝は、趣味でランニングを楽しむ方よりも、競技レベルでトレーニングを積んでいるランナーの方が、発症する可能性が高いといわれています。
Messierらの研究では、ランナーにおける膝の損傷のメカニズムとして、過回内(かかとの骨が内側に倒れこむ状態)、股関節外転筋力低下(足を外側に開く筋肉の弱化)、下肢アライメント異常(脚の軸のずれ)、大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)やハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)の筋力バランス不均衡などが危険因子として挙げられています。
これらの因子は、ランニング時の衝撃吸収能力を低下させ、膝関節への負担を増大させるため、ランナー膝のリスクを高める可能性があります。特に、競技レベルのランナーは、トレーニング量や強度が高いため、これらの危険因子に注意する必要があります。
予防法
ランナー膝を予防し、再発を防ぐためには、日々のトレーニングやケアが重要です。ランナー膝の予防に効果的な対策を3つのポイントに絞って、具体的な方法をわかりやすく解説しますので、一緒に見ていきましょう。
適切なウォーミングアップとストレッチ
ランニング前のウォーミングアップとストレッチは、ランナー膝の予防にとても大切です。準備運動をせずに急に走り始めると、筋肉や関節が硬い状態のまま大きな負担がかかり、ランナー膝に限らず怪我のリスク全般が高まります。ウォーミングアップは、体温を上げて血行を良くし、筋肉の柔軟性を高める効果があります。
具体的には、軽いジョギングや、もも上げ、かかと上げなどを5~10分程度行うのがおすすめです。これにより、体温が上昇し、筋肉への酸素供給が向上することで、筋肉がより効率的に動く準備が整います。
ストレッチは、筋肉の緊張をほぐし、関節の可動域を広げる効果があります。ランナー膝に関係する筋肉として、太ももの前側にある大腿四頭筋、裏側にあるハムストリングス、そして太ももの外側にある腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)が重要です。
それぞれの筋肉を伸ばすストレッチは様々ありますが、例えば、腸脛靭帯のストレッチとしては、立位で伸ばしたい方の足を後ろにクロスさせ、上体をクロスさせた足と反対側に倒す方法があります。この時、股関節の外側が伸びている感覚があればOKです。
正しいランニングフォームの確立
ランニングフォームはランナー膝の予防に直結する重要な要素です。ランニングフォームが悪いと、着地の際に膝に過度な負担がかかり、ランナー膝の原因となるだけでなく、他の部位への負担も増大させてしまいます。
私はランニングフォームは、個々の体に適した形があり、一概に何が正しいとは言えないと考えています。しかし、一般的に正しいフォームを身につけるためのポイントは、例えば以下のとおりです。
- 着地はかかとではなく、足の裏全体、あるいは真ん中あたりで着地するように意識する(ミッドフット着地)
- 歩幅を小さくし、足の回転数を上げる(ピッチ走法)
- 膝が内側に入らないように注意する(ニーイン・トゥーアウト)
- 背筋を伸ばし、目線は前方に向ける
これらのポイントを意識することで、膝への負担を軽減し、ランナー膝の予防につながります。
ランニングフォームの改善には、専門家の指導を受けるのも有効です。自分一人で改善しようとすると、かえって間違ったフォームを身につけてしまう可能性もあります。ランニング専門のコーチや、理学療法士(当院には、マラソン完走経験者の理学療法士が勤務してます。)などに相談してみるのも良いでしょう。
装具選びとその重要性
ランニングシューズやサポーターなどの装具選びも、ランナー膝の予防にとって重要な要素です。自分に合った適切な装具を選ぶことで、膝への負担を軽減し、ケガのリスクを減らすことができます。
ランニングシューズ選びで重要なのは、クッション性と安定性です。クッション性が高いシューズは、着地の衝撃を吸収し、膝への負担を軽減します。安定性が高いシューズは、足首のぐらつきを抑え、膝の安定性を高めます。自分の足型や走り方に合ったシューズを選ぶことが大切です。
サポーターは、膝関節をサポートし、安定性を高める効果があります。ランナー膝の予防には、膝の外側をサポートするタイプのサポーターがおすすめです。サポーターは、痛みがなくても予防的に使用することができます。
適切な装具選びは、ランニングを快適に楽しむためにも重要です。

まとめ
ランナー膝の予防について、フォーム改善から装具選びまでご紹介しました。ランナー膝は、腸脛靭帯と大腿骨外側上顆の摩擦で炎症が起きる障害です。長距離ランナーや、ジャンプやストップ動作の多いスポーツ選手に多く見られます。
予防には、ウォーミングアップとストレッチ、正しいランニングフォームの確立、適切な装具選びが重要です。ウォーミングアップとストレッチで筋肉の柔軟性を高め、正しいフォームで膝への負担を軽減し、自分に合ったシューズやサポーターを選びましょう。
これらの対策を継続することで、ランナー膝を予防し、快適なランニングライフを末永く楽しみましょう。
参考文献
- Kumar D, McDermott K, Feng H, Goldman V, Luke A, Souza RB, Hecht FM. Effects of form-focused training on running biomechanics: A pilot randomized trial in untrained individuals. PM R. 2015 Jan 26;7(8):814–822. doi: 10.1016/j.pmrj.2015.01.010.
- Messier SP, Legault C, Schoenlank CR, Newman JJ, Martin DF, DeVita P. Risk factors and mechanisms of knee injury in runners. Med Sci Sports Exerc. 2008 Nov;40(11):1873-9. doi: 10.1249/MSS.0b013e31817ed272.