2025.6.10 Tue. 水泳で起こる怪我。専門医が原因から治療法まで解説 スポーツ 水泳は全身運動で、陸上競技に比べて関節への負担が少ないと思われがちですが、実は特定の部位に負担が集中しやすく、様々な怪我のリスクがあります。 肩、膝、肘、腰など、水泳特有の動きによって引き起こされる怪我は「水泳肩」「水泳膝」などと呼ばれ、その原因は多岐に渡ります。 スポーツによる肩の怪我の約3割は水泳のような腕を水平より上に上げる動作が多いスポーツで発生すると言われており、決して他人事ではありません。 この記事では、水泳で起こる代表的な怪我の種類、症状、そして効果的な治療法と予防策を整形外科専門医の観点から分かりやすく解説します。水泳を健康的に長く楽しむためにも、ぜひご一読ください。 目次0.1 水泳で起こる怪我0.1.1 水泳肩(肩関節周囲炎、腱板炎、インピンジメント症候群など)0.1.2 水泳膝(膝蓋腱炎、腸脛靭帯炎など)0.1.3 水泳肘(上腕骨外側上顆炎など)0.1.4 水泳腰(腰椎分離症、腰椎すべり症など)0.2 治療法0.2.1 治療法(保存療法、手術療法、リハビリテーション)0.3 予防法0.3.1 正しいフォームの習得0.3.2 適切なウォーミングアップとクールダウン0.3.3 適切な筋力トレーニングとストレッチ0.3.4 過度な練習の回避0.3.5 水分補給と栄養管理0.4 まとめ0.5 参考文献1 【門真南駅から徒歩0分】むとう整形外科・MRIクリニック|鶴見区・大東市・守口市からのアクセス便利 水泳で起こる怪我 水泳肩(肩関節周囲炎、腱板炎、インピンジメント症候群など) 水泳肩は、肩関節周囲の炎症や損傷をまとめて呼ぶ言葉で、特にクロールやバタフライで腕を大きく回す動作を繰り返すことで起こりやすくなります。肩甲骨と上腕骨をつなぐ腱板への負担が大きくなるためです。腱板炎、肩関節周囲炎、インピンジメント症候群など、さまざまな病態が含まれます。 腱板炎は、腱板に炎症が起こり、肩の痛みや腕の上げ下ろしが困難になる病気です。炎症が長引くと腱板が部分的に断裂することもあります。 肩関節周囲炎は、肩関節の周りの組織に炎症が起こり、肩の痛みや動きの制限が生じる病気です。いわゆる「四十肩」「五十肩」と呼ばれることもあります。 インピンジメント症候群は、腕を上げた際に肩峰骨と上腕骨頭の間で腱板や滑液包が挟み込まれ、炎症や痛みを引き起こす病気です。 これらの病態は、スポーツによる肩の怪我の約3割を占め、水泳のような腕を水平より上に上げる(オーバーヘッド)動作が多いスポーツで特に多くみられます。 >>水泳肩(スイマーズショルダー)の原因、治療法、予防法 水泳膝(膝蓋腱炎、腸脛靭帯炎など) 水泳膝は、膝関節周囲の痛みや炎症の総称で、平泳ぎで膝を曲げ伸ばししながら水を蹴る動作を繰り返すことで起こりやすくなります。 膝蓋腱炎は、膝のお皿の下にある膝蓋腱に炎症が起こり、膝の前面に痛みを感じる病気です。ジャンプ動作の繰り返しや、大腿四頭筋の柔軟性低下が原因となることが多いですが、平泳ぎのキック動作でも発症することがあります。 腸脛靭帯炎は、膝の外側にある腸脛靭帯と大腿骨外側上顆が擦れ、炎症を起こし痛みを生じる病気です。ランニングやジャンプ動作の繰り返しで起こりやすいですが、平泳ぎでも同様に発症リスクがあります。平泳ぎでは、脚を内側にひねる動作が繰り返されるため、腸脛靭帯に負担がかかりやすいのです。 水泳肘(上腕骨外側上顆炎など) 水泳肘は、肘関節の外側に痛みを生じる疾患です。クロールやバタフライなど、腕を回旋させる動作で、肘の外側に負担がかかり炎症を引き起こします。特に、手首を返す動作で痛みが強くなります。 上腕骨外側上顆炎は、肘の外側にある上腕骨外側上顆に付着する筋肉の腱に炎症が起こる病気です。テニス肘とも呼ばれ、テニスだけでなく水泳でも発症することがあります。水泳では、プル動作で水をかく際に、手首を内側に返す動作を繰り返すことで、肘の外側に負担がかかり発症しやすくなります。 水泳腰(腰椎分離症、腰椎すべり症など) 水泳腰は、腰部に痛みやしびれを生じる疾患です。水泳は浮力があるため、陸上競技に比べて腰への負担は少ないと考えられていますが、バタフライや背泳ぎなど、特定の泳ぎ方や、呼吸をする際に体をひねる動作を繰り返すことで、腰に負担がかかり痛みが生じます。 腰椎分離症は、腰椎の後ろの部分に亀裂が入る病気で、成長期にスポーツなどで腰を繰り返し反る動作をすることで発症しやすいです。バタフライで腰を大きく反る動作を繰り返すと、腰椎に負担がかかり、分離症を引き起こす可能性があります。 治療法 治療法(保存療法、手術療法、リハビリテーション) 水泳の怪我の治療法は、怪我の種類や程度によって異なります。多くの場合、まずは保存療法を行います。保存療法とは、手術以外の治療法のことで、安静、アイシング、湿布、消炎鎮痛剤の内服、注射、装具やテーピングによる固定などが挙げられます。 痛みが強い場合は、患部を固定して安静にすることが重要です。 最近の研究では、競技レベルの水泳選手の場合、肩の痛みはトレーニングの強度と関連している可能性があると報告されています。 保存療法で改善しない場合や、腱や靭帯が完全に断裂している場合などは、手術療法が必要になることもあります。手術療法は、損傷した組織を修復したり、関節の安定性を回復させたりすることを目的とします。 リハビリテーションは、怪我の治療過程において非常に重要な役割を果たします。 ストレッチや筋力トレーニングなどを行い、関節の柔軟性や筋力を回復させ、日常生活やスポーツへの復帰を目指します。医師や理学療法士の指導の下、適切なリハビリテーションを行うことで、再発予防にも繋がります。 予防法 正しいフォームの習得 正しいフォームで泳ぐことは、水泳における怪我の予防に非常に重要です。 間違ったフォームで泳ぎ続けると、特定の部位に過剰な負担がかかり、炎症や痛みを引き起こす可能性があります。例えば、クロールで腕を水に入れる際に、肩よりも外側に入れてしまうと、肩関節に大きな負担がかかり、肩関節周囲炎や腱板炎などを引き起こすリスクが高まります。 また、平泳ぎで膝を必要以上に大きく開いてしまうと、膝の靭帯や半月板を損傷する可能性があります。平泳ぎで膝を痛める原因は、キック動作で脚を内側にひねる動きにあり、これにより腸脛靭帯に負担がかかり、腸脛靭帯炎を引き起こす可能性があります。 正しいフォームは、専門のコーチや経験豊富な人に直接指導してもらうのが一番確実です。自己流で泳ぎ続けると、知らず知らずのうちに間違ったフォームが身についてしまい、将来的に怪我のリスクを高めることに繋がります。 適切なウォーミングアップとクールダウン 水泳を始める前には、適切なウォーミングアップを必ず行いましょう。ウォーミングアップは、体温を上昇させ、心拍数を徐々に上げることで、身体を運動に適した状態へと導きます。 ウォーミングアップを行うことで、筋肉や関節の柔軟性が向上し、怪我の予防に繋がります。反対に、準備運動をせずに急に激しい運動を始めると、筋肉や関節に急激な負荷がかかり、損傷しやすくなります。 水泳の後には、クールダウンを行いましょう。クールダウンは、運動によって緊張した筋肉をリラックスさせ、疲労物質の排出を促し、身体を休息状態へと導きます。クールダウンを怠ると、筋肉痛や疲労が長引きやすく、怪我のリスクも高まります。 適切な筋力トレーニングとストレッチ 水泳で必要とされる筋肉をバランス良く鍛えることは、怪我の予防に大きく貢献します。 特に、肩、腕、背中、体幹、脚の筋肉は、水泳において重要な役割を果たします。これらの筋肉を鍛えることで、水泳のパフォーマンス向上だけでなく、怪我の予防にも繋がります。 筋力トレーニングだけでなく、ストレッチも非常に大切です。ストレッチは、筋肉の柔軟性を高め、関節の可動域を広げる効果があります。水泳前後のストレッチだけでなく、普段からこまめに行うことで、より怪我をしにくい身体作りに繋がります。 過度な練習の回避 練習は上達のために不可欠ですが、過度な練習はかえって逆効果になる可能性があります。身体に疲労が蓄積すると、筋肉や関節への負担が大きくなり、怪我のリスクが上昇します。 水分補給と栄養管理 水泳中は、想像以上に多くの汗をかいています。こまめな水分補給を心がけ、脱水症状を防ぎましょう。水分不足は、身体の機能を低下させ、パフォーマンスの低下だけでなく、熱中症などの深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。 まとめ 水泳は全身運動で、一見関節への負担は少ないように思えますが、実は特定の部位に負担が集中しやすく、様々な怪我のリスクがあります。肩、膝、肘、腰など、それぞれ特有の怪我の原因と症状、治療法を理解しておくことが大切です。 正しいフォームの習得や、適切なウォーミングアップ・クールダウン、ストレッチなどで怪我を予防し、水泳を長く楽しめるようにしましょう。 もし痛みや違和感を感じたら、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。自己判断で放置せずに、専門家のアドバイスを仰ぎ、健康的に水泳を続けましょう。 参考文献 Englebert L, Kohlprath R, Traverso A, Lannes X and Goetti P. “[Review of common shoulder and elbow pathologies in athletes].” Revue medicale suisse 20, no. 899 (2024): 2400-2406. McKenzie A, Larequi SA, Hams A, Headrick J, Whiteley R and Duhig S. “Shoulder pain and injury risk factors in competitive swimmers: A systematic review.” Scandinavian journal of medicine & science in sports 33, no. 12 (2023): 2396-2412. むとう整形外科・MRIクリニック 水泳で起こる怪我。専門医が原因から治療法まで解説 開院予定日のお知らせ 【医師監修】めまいの完全ガイド|原因から治療法まで解説 整形外科と脳神経外科があるクリニック利点 一度の受診で、二つの専門性。手足のしびれも、もう迷わない。 【整形外科医監修】腰痛を抱えている方の寝具選びから就寝姿勢まで解説 【門真南駅から徒歩0分】むとう整形外科・MRIクリニック|鶴見区・大東市・守口市からのアクセス便利